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なぜ今メモリーが高いのか──修理店が語るAI時代の影響

10月25日。いつものようにパソコン用メモリーの仕入れサイトを開いた私は、思わず目をこすりました。

「え、これ……昨日の倍?」

ここ最近、AIの需要が爆発的に伸びているというニュースは耳にしていましたが、まさか店の仕入れレベルでここまで肌に感じる日が来るとは思ってもいませんでした。もちろん、メモリーやSSDが“地上の一般消費者向け”まで一気に品薄になるわけではないのですが、半導体という一本の道を通る以上、波は確実に伝わってくる

今回はそんな「半導体価格高騰」の背景を、専門的すぎない言葉で、でも少し深く掘り下げてみようと思います。

AIブームが引き起こした“メモリー争奪戦”

「人が増えた」ではなく「計算が増えた」

ニュースでは「AI需要でメモリーが高騰」と一言で片づけられがちですが、実際にはもう少し複雑です。AIが使うのは、いわゆる高性能コンピューティング用(HPC)のメモリー。この分野では、今までのPC用メモリーよりもはるかに速く、そして容量もケタ違いの“HBM(High Bandwidth Memory)”というタイプが使われています。

これを作るには製造工程が特殊で時間もコストも倍以上。結果、AIサーバー用に優先的に回され、残りの生産量が一般用メモリーに回ってこない——という構造になっているのです。

値上げのトリガーは「10月25日」あたりだった

私の体感でも、10月下旬を境に主要メモリーの仕入れ価格が一気に上がりました。調べてみると、海外メーカーが次期供給価格を引き上げたタイミングと一致していました。

特に影響が大きかったのは、

  • Micron(マイクロン)
  • SK hynix(ハイニックス)
  • Samsung(サムスン電子)

この3社。いずれも世界シェア上位のメモリーメーカーです。AI向けの生産を優先するため、DDR5などの最新規格以外は“供給を絞る”動きが出始めています。つまり、普通のPC用メモリーも“つられて値上がり”している状態です。

「それなら今のうちに買いだめを!」という考え、ちょっと待って

このあたりから、SNSや掲示板では「買っとけ!」という声が増えてきます。でも私は、それはあまりおすすめしません。

なぜなら、メモリーは“腐らない”けれど、“古くなる”んです。

技術は日進月歩。今日お得に買えたDDR4が、数ヶ月後には「もう次の規格(DDR5/DDR6)が主流になっていた」なんてこともよくあります。

そしてもうひとつ怖いのが、使わずに保管しているうちに接点が酸化したり、相性確認できないまま動かないケース。長年修理業をやっていると、押し入れから出てきた未使用メモリーが「なぜか認識しない」事例には何度も出くわしました。

「パーツは生き物」なんです。冷蔵庫で保管できるわけじゃありません。

実際、今の値上がりは“AIサーバー向け”が主役

「でも、私たちが使う一般的なメモリーも同じように上がるの?」——この質問、とても多いです。

答えは「影響はあるけど、波の端っこ」。

AIサーバー用のメモリー(HBMやDDR5 ECC Registeredなど)は、1枚あたり数万円〜十数万円の世界。一方、私たちのPCで使うメモリー(DDR4やDDR5 Non-ECC)は、構造が違うため直接的な取り合いにはなりません。

ただし、同じ製造ラインを使うため、AI用にリソースを取られると一般用の生産量が減り、じわっと価格に反映される。つまり、「直接ではないけど、間接的に効いてくる」というのが正しい理解です。

修理店の現場から見る“買い方のコツ”

私たちのような修理・販売店も、この波を見ながら慎重に動きます。「たくさん仕入れておこう」と思う気持ちは正直あります。しかし、それは在庫リスクとの戦いです。

数年前、SSDが急に値上がりしたときも同じような騒ぎがありました。その後、半年で一気に価格が戻り、在庫を抱えたお店が大変な思いをした例も。だから、当店では“ご依頼を受けてから仕入れる”というスタイルをずっと貫いています。

旬なものは旬に。高くなっているときに無理して買わず、必要になったときに最適なものを——これが結局、お客様にもお店にも一番リスクの少ない方法なのです。

メモリー購入を考える前にやるべき3つのチェック

  1. 現在のメモリー使用率を確認する
     → タスクマネージャーで「70%以上」張り付いているなら増設候補
  2. SSDの空き容量と健康状態を確認する
     → ストレージが詰まっていると、仮想メモリーが足りず動作が重くなる
  3. 常駐アプリを見直す
     → セキュリティソフトや自動起動ツールが無駄にメモリーを消費している場合も

この3つを整理するだけで、「あ、増設しなくても快適になった」という例は本当に多いです。

では、どんな人が“いま買うべき”か?

  • 動画編集やCAD、ゲーム配信など明確に重たい作業をしている人
  • 現在のPCをあと3年以上使う予定の人
  • 使用率が高く、ストレスを感じる人

逆に、

  • 来年あたりPCを買い替える予定
  • 主な用途がネット・メール・Office中心
    こうした方はまだ慌てる必要はありません。

店主の本音:「相場より、人を見たい」

正直に言うと、値上げのニュースが流れると問い合わせが一気に増えます。

「今買わないと損ですか?」
「今のうちに増設しておくべきですか?」

——気持ちはすごく分かります。

でも、私が見たいのは「相場」よりも「その方の使い方」です。PCの使い方って千差万別で、“高性能”よりも“安定”が喜ばれる場面のほうが多い。むしろ、無駄に性能を上げた結果、トラブルが増えることもあります。

だから私は、“必要なぶんだけ”“ちょうどいいタイミングで”をモットーにしています。メモリーの相場は上がったり下がったり。ただひとつ確実に言えるのは、「必要なときには必ず市場に在庫がある」ということ。

焦って買って後悔するよりも、正しい情報を持って冷静に選ぶこと。

私たちのような現場の人間ができるのは、日々の変化を肌で感じながら、「今、どこで・どんなものが・どんな価格で手に入るか」をちゃんと伝えていくことだと思っています。——そして、私自身もたまに仕入れ画面の数字を見て「昨日買っとけばよかった……」と頭を抱えるわけですが(笑)

それでも、慌てず。この波を静かに見守りながら、本当に必要なときに一番いい選択をしていきましょう。