
お客様からの情報ですが、先日インターネット回線をNURO光 → ドコモ光 10ギガ に乗り換えたそうです。「せっかくなら速いほうがいいよね」と、TP-Link の10Gbps対応ルーターも用意して万全の体制。
ところが、何気なく radiko を開いた瞬間に違和感があったようで。
「あれ? 北海道なのに、エリアが『東京』になってる……?」
とのこと。
HBCラジオもSTVラジオも出てこない。代わりに、ニッポン放送やTBSラジオなど、東京の局がずらり。最初は「ルーターの設定を間違えたかな?」と疑ったのですが、調べていくうちに分かったのは――
悪いのはルーターでもパソコンでもなく、“次世代ネットワークの仕組みそのもの” だった、という話です。この記事では、
を、できるだけ分かりやすくまとめました。
ざっくりと原因は「IPoE+VNE」、解決策は「radikoに申請」
最初に一番大事なポイントだけまとめます。
- 原因
NURO光からドコモ光10ギガに変えたことで、接続方式が PPPoE → IPoE(IPv4 over IPv6) に変わり、通信の「出口」が 東京のVNE(Virtual Network Enabler)拠点 になった。 - radikoは「接続元IPアドレス」でエリアを判定しているため、北海道からアクセスしていても、東京のゲートウェイから来ている=「東京のユーザー」と誤解 してしまう。
- 根本的な解決策
ルーター設定では直りません。radiko公式の「地域判定修正フォーム」から、『自分は北海道にいます』と申請するのが最も現実的で確実 です。
ここから先は、「中身をちゃんと理解したい方向け」に、仕組みを少し掘り下げていきます。
今回起きた事象:回線を変えたらエリアも変わった
NURO光時代:普通に北海道エリア
これまでは NURO光 経由で接続しており、
radikoを開くと当たり前のように
- HBCラジオ
- STVラジオ
- AIR-G’
- FM NORTH WAVE
といった 北海道の放送局 が表示されていました。これは、
がうまく噛み合っていた結果だと考えられます。
ドコモ光10ギガ+TP-Linkルーター:急に「東京」扱いに
ところが、ドコモ光10ギガに替えてTP-Link製の10Gbps対応ルーター経由で接続した途端、
という状態に。ここで一度、ありがちな誤解が生まれます。
「ルーターの設定が悪いのかな?」
「Windowsの位置情報が東京になってるのかな?」
結論からいうと、どちらも関係ありません。むしろ、最新の高速回線の“正しい動き”をしているからこその副作用 です。
そもそも radiko の「エリア判定」はどうやって決まるのか?
GPSではなく「IPアドレス」で判定している
スマホアプリの場合、GPSや基地局情報などを使った判定も可能ですが、PC+固定回線+ブラウザ版radiko の場合、基本的には
接続してきた グローバルIPアドレス を「IPアドレスと地域を紐付けたデータベース」と照合し、「このIPは○○県」と判断する
という仕組みです。これを IPジオロケーション と呼びます。Windows 11 の位置情報サービスの設定をいじっても、radiko側はそれを信用してくれません。著作権や放送エリアの制限が絡むため、
「いじりにくいOSの設定より、IPアドレス基準のほうが安全で確実」
という判断になっているわけですね。
なぜ「IPoE」にすると北海道が東京になるのか
ここが今回の肝です。
NURO光:比較的エリアとIPが素直に紐づいていた
NURO光は、NTTのダークファイバを借りつつも、自社のネットワーク(G-PON / XGS-PON)+自社IPアドレス で運用しています。そのため、
といった構図で、物理的な場所とIPの「地域情報」が比較的一致しやすい 状態でした。
ドコモ光10ギガ:IPoE+VNEで「出口」が東京に集約される
一方、ドコモ光10ギガは、
という構成になっています。ざっくり流れを書くと、
- 自宅のPC(IPv4パケット)
- ルーターがそれを IPv6パケットの中に包む(カプセル化)
- NTTのNGN網を IPv6 のまま東京方面へ高速移動
- 東京(or大阪など)にある VNEのゲートウェイ装置で“包みを解く”
- そこで初めてインターネット(IPv4)に出ていく
このため、radikoのサーバーから見ると、
あ、この人からのアクセス、東京のVNE拠点から来てるな→ じゃあこのユーザーは『東京エリア』だね
と判定されてしまうわけです。
つまり「ルーターもPCも悪くない」
今回の構図をまとめると、こうなります。
「速くするために出口を集約したら、コンテンツ側の“地域判定ロジック”が追いついていない」という、完全に仕組みのすれ違いです。
技術的な比較イメージ
文章だけだと分かりづらいので、ざっくり比較するとこんな感じです。
| 項目 | NURO光(旧環境) | ドコモ光10ギガ(新環境) |
|---|---|---|
| 回線の種類 | NURO独自網(ダークファイバ+自社設備) | NTT東西のNGN+光コラボ |
| 接続方式 | PPPoE中心 | IPoE(IPv4 over IPv6) |
| インターネットへの出口 | 比較的、地域ごとの拠点から | VNEのゲートウェイ(多くが東京・大阪) |
| IPジオロケーション | 物理エリアと一致しやすい | 「東京発」に見えやすい |
| radiko判定 | 北海道 | 東京 |
どうやって直す?:現実的な解決策3パターン
①【一番おすすめ】radikoの「地域判定修正フォーム」に申請する
いちばん現実的で、10ギガの速さも維持できる方法です。radiko自身も、IP判定のミスが起きることは把握していて、そのための 「エリア判定修正の問い合わせフォーム」 を用意しています。
手順の流れ
- 問題が起きている環境でアクセスする
- ドコモ光10ギガ回線
- TP-Linkルーター経由
- Windows 11 のPC(Wi-Fiでも有線でもOK)
- ※スマホの4G/5Gやテザリング経由ではダメです
- radikoの公式サイト → ヘルプ/お問い合わせへ進み、
「地域判定に関するお問い合わせ」フォームを開く - 画面上に現在の判定エリア(たとえば「TOKYO」)が表示されるので、
「本来の地域」として 「北海道」 を選択して送信 - 数日(目安1〜3日ほど)待つ
- PCを再起動する、ブラウザのキャッシュをクリアするなどしてから
再度radikoを開き、北海道の局が表示されるか確認
注意点
- IPアドレスが変わる(ルーターの再起動など)と、まれに再申請が必要になる場合があります。
- ただし、IPoE環境はPPPoEに比べてIPアドレスが長期間固定されやすいので、一度修正してもらえれば、しばらくは安定するケースが多い印象です。
② PPPoE接続を併用する「裏技」
「どうしても今日中に北海道の局を聴きたい!」という場合の一時的な回避策です。
仕組み
- 多くのプロバイダは、IPoEとは別に 従来のPPPoE用ID/パスワード を発行しています。
- PPPoE接続は、都道府県単位の網終端装置(いわゆる収容局)でインターネットに出るため、地域に紐づいたIPアドレスが割り当てられやすい 特性があります。
使い方のイメージ
- Windows 11側で「PPPoE接続」を作成し、radikoを聴くときだけ その接続をオンにする。
- それ以外のときは、従来どおりIPoEの高速回線を使う。
デメリット
- PPPoEは混雑しやすく、回線速度が一気に落ちる可能性があります(数百Mbps以下など)。
- 接続の切り替え操作が必要で、少し手間。
- 「どうしても今すぐ聴きたいときの非常用」くらいの位置づけが現実的です。
③ VPNでエリアを変える? → あまりおすすめしません
技術的には、
北海道にサーバーを置いているVPNに接続し、そのサーバー経由でradikoにアクセスする
という方法も理論上はありますが、実際にはおすすめしにくいです。
radikoが公式に用意している 「地域判定修正フォーム」 を使うほうが、トラブルも少なく、精神衛生上も良いと思います。
「場所」を持たないIPアドレスと、これからの課題
今回の件は、一人のユーザーのトラブルに見えて、実はインターネット全体の構造変化が生んだ「ひずみ」でもあります。
高速化の代償としての「地域性の喪失」
- 回線は 100Mbps → 1Gbps → 10Gbps と高速化
- その裏で、トラフィックを効率的にさばくために大都市圏にゲートウェイを集約 するのは、運用上は合理的な判断です。
ただその結果、
「このIPアドレスは北海道のはず」という暗黙の前提が崩れ、IPアドレスと地理情報の結びつきがどんどん薄れてきている
という現象が起きています。
コンテンツ側の対応が追いついていない
本来であれば、
- ISP側が「このIP帯は北海道向けです」と、最新情報をコンテンツ事業者やGeoIPデータベースに提供する
- もしくはradiko側が、
- IPアドレス
- ブラウザの位置情報API
- Wi-Fiアクセスポイント情報
などを組み合わせて、多層的に判定する
といったアップデートが必要です。ところが現状は、
「お客様からフォームで申請が来たら、そのIPを手作業で『北海道』に登録し直す」
という、なかなかアナログな運用で穴埋めしている印象です。
お客様にどう説明するか
もし同じようなご相談を受けたら、私ならこんな感じでお伝えします。
- 「ルーターもパソコンも壊れていません」→ むしろ、10ギガ回線+最新ルーターが“正しく”動いているから起きている現象です。
- 「インターネットの出口が東京に集約された結果、radiko側が『東京の人ですね』と勘違いしている状態です」
- 「解決策は、radikoの公式フォームから『私は北海道にいます』と申請していただくことです」
機器の設定をいじり倒すよりも、仕組みをきちんと説明して、正しい窓口を案内する のが、今回のケースでは一番の近道だと感じました。
総括するとこんな感じ
- NURO光 → ドコモ光10ギガへの移行で、radikoが東京エリア判定になった原因はIPoE+VNEゲートウェイの“東京集中”によるIPジオロケーションのズレ。
- TP-LinkルーターやWindows 11の設定が悪いわけではなく、回線インフラの仕組み上そうなってしまう もの。
- 現実的な解決策は、
- radiko公式の地域判定修正フォームから「北海道」への修正申請を行う(おすすめ)
- PPPoE接続を併用する裏技(速度低下のデメリットあり)
- 将来的には、「IPアドレス=場所」という前提に頼らない判定方式へコンテンツ側がシフトしていく必要がありそうです。
もし同じような現象でお困りの方がいたら、「それ、機械が壊れてるんじゃなくて、仕組みの問題ですよ」と、そっと教えてあげていただければうれしいです。














