
いつも通りのようで、ちょっとだけ空気が違う日でした。
お客様から2枚のマイクロSDカードをお預かりしたんです。「フォーマットしますか?」って表示されていた1枚と、一見大丈夫そうに見える、でも中身はちょっと難ありそうなもう1枚。
パソコン修理屋をやっていると、見た目だけじゃ判断できない「記憶のかけら」に、よく出会います。……まるで人間みたいですよね。
最初の1枚目
これは比較的スムーズにいきました。
「すべてのファイル」「ビデオファイル」「写真と画像」「追加検索」って4つのフォルダーに分類して、写真も動画もバッチリ。まるで、忘れていた宝箱をそっと開けたような感じです。
作業しながら、
「あぁ、この動画、楽しそうだな」なんて思ったり、
「この写真、きっと思い出だよな」って、ちょっとだけ手が止まることもありました。
……で、ですよ。
問題は2枚目のほうでした
これがまた、なんというか、
「うん、時間かかる気しかしない」っていう。
NANDチップが劣化していて、
読み出しにとんでもなく時間がかかる。
でも40時間を経て、ちゃんとやり切りました。
2枚目のSDカードも、デジタルコピーは完璧に完了。
保存されたファイルの再生もできました。
……ただし、ひとつだけ。
動画がですね、全部ちょっとカクカクしてるんです。
最初は「あれ、変な復旧しちゃったかな?」って心配したんですが、よくよく確認してみると、元の映像自体がカクついていた。
つまりですね、SDカードが壊れていたわけじゃなくて、「録画したその時点で、もうカクついてた」ってことだったんです。
これ、たとえるなら——「ちゃんと録音したんだけど、最初からマイクが遠かった」みたいなもので、いくらデータとしては“正常”でも、記録された時の不具合はどうにもならないんですよね…。
お客様にも正直にご説明しました。
「修復は難しいですが、再生は可能です」と。
それに対して、「全滅覚悟してたので、再生できるだけでもありがたいです」……そんな言葉をいただいた時、ちょっとだけ目頭が熱くなりました。私たちは、壊れたものを直す仕事をしていますが、本当にやっているのは、“思い出”や“安心”をつなぎ直すことなのかもしれません。
「フォーマットしますか?」の先にあったもの
というわけで、1枚目・2枚目ともに、それぞれ分類したデータをご購入いただいた2TBの外付けHDDにしっかりと収録させていただきました。
時々思うんです。
人の記憶って、デジタルだけじゃなくて、心の中にもあるなって。たとえ映像が少しカクついてても、「これがあの時のやつか」って気づけるだけで、何かが戻ってくる。
そのお手伝いができたなら、今日もこの仕事、やってて良かったなって思えるんです。