
キーボードひとつで画面が乱れる?
パソコン修理をしていると、時々「これは一体なんなんだ?」という現象に出くわします。今回はその中でも、ちょっとした“ホラー級”の出来事です。──アーテック製のキーボードをASRock製マザーボード(AMD環境)に挿したら、画面が乱れる。しかも数字キーが効かない。
最初は「相性問題かな?」と思ったのですが、これが想像以上に深い沼だったのです。
一見ただのキーボード、されど“触媒”だった
調べていくうちに分かったのは、このアーテック製キーボードが内蔵USBハブを持っているということ。つまり「キーボード単体」ではなく「USBハブ付きキーボード」なんです。
これがASRockのUEFI(BIOS)と、AMDの内部構造と、見事に噛み合わなかった。まるで“鍵が二つ同時に回らない金庫”みたいなもので、これが原因で画面が乱れたり、テンキーが沈黙したりするわけです。
キーボードは悪くない。問題は、マザーボードとファームウェア側の「解釈のズレ」だったというのが今回の結論です。このキーボードは“犯人”ではなく、あくまで隠れた欠陥を炙り出す触媒でした。
原因は「Resizable BAR(ReBAR)」の裏に潜む設定たち
さて、もう少し深堀りします。最近のマザーボードには「Resizable BAR(AMDではSmart Access Memory)」という設定があります。CPUがGPUの全メモリに直接アクセスできる仕組みで、ゲームのパフォーマンスが上がる優れもの。しかし──これを有効にするためには、
- CSM(Compatibility Support Module)を無効化
- Above 4G Decodingを有効化
という、2つの設定変更が必要になります。
問題はこの2つを同時にいじると、USB機器とGPUが同じ資源(IRQやメモリ空間)を奪い合ってしまうという点。これが画面の乱れ(描画異常)や入力不良(テンキー無反応)を引き起こしていたわけです。
「あの設定を切った瞬間に数字が打てなくなった」
実際の現象はかなりリアルです。Resizable BARを有効化して再起動すると──画面がバグる。
数字キーがまったく反応しない。BIOSに戻るとキーボードが効かない。
まさかキーボードが画面を壊すなんて…誰も信じませんよね。でも、これが現実でした。
原因を追い詰めた先に見えた“UEFIの闇”
技術的に言えば、ASRockのUEFIが複合USBデバイスを初期化できずに落ちていることがわかりました。しかも、AMD側のAGESAファームウェアに古いバグが残っており(USBドロップアウト問題)、この2つがタイミング悪く噛み合うと「グラフィックのリソース競合」まで発生。
つまり、マザーボードが「どっちを先に動かすか」で迷っているんです。結果、どっちも中途半端に動かず、画面はおかしくなり、キーボードも沈黙する。──完全に“共倒れ”です。
対策:まずは冷静に「設定を戻す」
まずは落ち着いてください。
ハードの故障ではありません。
- CMOSクリア(BIOSをリセット)
- CSMを有効化、Above 4Gを無効化
- それでも直らなければBIOSを最新版にアップデート
これで、ほとんどのケースは元に戻ります。
特にBIOSに含まれるAMD AGESAを1.2.0.7以降に更新するのが重要。
これでUSB関連の既知バグが修正されます。
最終手段は「キーボードを替える」
もしどうしても直らない場合は、アーテック製キーボードを内蔵ハブのない普通のUSBキーボードに変えるのが一番早いです。もしくは、間にセルフパワー型USBハブを噛ませて「通訳」を挟むと安定することもあります。
正直、私も最初は「そんなバカな」と思いました。でも、試してみたら本当に直るんです。
やっぱりパソコンの世界は“理屈では説明できない”部分がまだまだありますね。
相性は“運”ではなく“構造”だった
このトラブルを通して感じたのは、「相性問題」って実は運ではなく構造的な問題なんだということ。マザーボード、ファームウェア、そしてUSB機器──それぞれが“正常”でも、同時に動くと“異常”を起こす。まるで人間関係のようです。
「誰も悪くないけど、うまくいかない。」──今回の現象は、まさにそんな感じでした。もしASRockやAMD環境で、
- 画面がチラつく
- テンキーが効かない
- BIOS画面でUSBが無反応
という症状が出たら、この記事を思い出してください。それはもしかすると、あなたのパソコンが抱える“隠れたリソース競合”かもしれません。














