
苫小牧の小さな修理店から見えた世界規模のトラブル
「Wi-Fiはつながってるのに、ネットに出られないんです」
この言葉、ここ数ヶ月で何度聞いたかわかりません。正直、最初は「またルーターの設定かな?」くらいに思っていたのですが、調べてみるとHPのノートPCだけでなく、ASUSやLenovoでも同じ現象が起きている。しかも使われているWi-Fiの部品がすべてMediaTek(メディアテック)製のMT7921やMT7922だったのです。
この時点で私は「これはもう、ひとつの店でどうこうできる話じゃないな」と、まるで病気の“感染経路”を追う医者のような気持ちで調査を始めました。
MediaTek:Wi-FiやBluetoothなど無線チップの大手メーカー
MT7921/MT7922:Wi-Fi 6/6E対応のMediaTekチップ
自動で直った!? Windows 11 25H2の不思議な力
ある日突然、治ったという報告
お客様からの報告で驚いたのは、「Windows 11を25H2に更新したら勝手に直った」という事例でした。あの、何をしても直らなかった“地球儀アイコン”が、嘘のように消えたのです。
裏を調べてみると、どうやらMicrosoftが自動的に新しい安定版ドライバを配布して上書きしていたらしい。つまり、私たちが手作業で格闘していた設定変更やドライバ更新を、Windowsが裏で“そっと片付けてくれた”というわけです。
まるで、寝ている間に家の掃除が終わっているような話です。……できれば最初からそうしてほしかったんですが(笑)。
「つながってるのに出られない」現象の正体
一番多かったのは“Restricted Connectivity”
現場では、「接続済み」と表示されているのにインターネットだけが遮断されるケースがほとんどでした。
さらにひどいと、Wi-Fiアダプタがデバイスマネージャーから消える。まるでパソコンが「そんな部品、最初からありませんけど?」という顔をするんです。正直、最初にこれを見たときは「やめてくれ…」と呟きました。
実は“眠り”と“節電”が原因だった?
スリープ復帰でWi-Fiが行方不明に
調べを進めると、この症状がよく出るのはスリープからの復帰時や長時間アイドル時。つまり、パソコンが“うたた寝”から覚めるときに、Wi-Fiが上手く目を覚まさないんです。
「寝起きが悪い」という表現がぴったりですね。
実際、Windowsの省電力機能(Modern StandbyやASPM)と、MediaTekのドライバがうまく噛み合っていなかったようです。その結果、PCが「電力節約のためにWi-Fiを切っていたけど、再び起動するタイミングを見失う」という、なんとも人間味のある不具合が起きていました。
世界中で同じ“寝坊グセ”が
HPだけじゃなかった
この問題、HPだけでなく、ASUSのROGシリーズやLenovoのIdeaPad/ThinkPadでも同じ報告が相次いでいました。つまり、特定メーカーのミスではなく、MeiaTekチップそのもののドライバの癖だったわけです。
興味深いのは、一部のユーザーが「もう我慢できん!」とIntel製AX210というWi-Fiカードに交換して、あっさり解決していたこと。「部品を替えるのが一番早い」──これは修理屋としても、ちょっと複雑な気持ちになる瞬間です。
OEM | 例 | モジュール | 症状 | 初期対策の傾向 |
---|---|---|---|---|
HP | 各ノート | MT7921/MT7922 | ネット不可・断続切断 | Winsock/TCP/IPリセット(=通信の初期化)、電源管理オフ、HP SA更新 |
ASUS | ROG/TUF | MT7921/MT7922 | 低速・高遅延・消失 | 802.11acへ一時降格(=Wi-Fi 5に固定)、MyASUS再導入 |
Lenovo | IdeaPad/ThinkPad | MT7921 | 数分おき切断 | ドライバ再導入、ネットワークリセット |
どうして25H2で直ったのか
Microsoftの“裏技”が発動していた
Windows 11の25H2では、OSの更新時に古いドライバを強制的に上書きし、安定版(3.4.0.1329など)を固定する処理が行われていました。言うなれば、Windows自身が「もう君のそのドライバ、ダメでしょ」と判断してくれたわけです。
この“強制安定版ロック”のおかげで、世界中の同じ症状が一斉に沈静化。これには私も思わず「ありがとう、Microsoftさん」と言いたくなりました。(ただし、もう少し早くお願いしたかったですが……)
現場で効いた“応急処置”
お客様の前で即効性があった方法たち
実際の修理現場で試して効果があった設定をまとめてみます。
- Windows Updateを全部適用する(オプションも)
- デバイスマネージャーで「電力を節約するためにオフにする」のチェックを外す
- Wi-Fiの設定を802.11ac(Wi-Fi5)に固定する
- 5GHz専用にする(2.4GHzは切る)
- ネットワークリセット(コマンドを使って初期化)
netsh winsock reset
netsh int ip reset
ipconfig /flushdns
netsh/ipconfig:Windows標準の通信トラブル復旧コマンド
デバイス マネージャー:PC内の部品状態を確認・操作する画面
どれも、パソコンの“寝起きの悪さ”を改善する方向です。最終的には25H2にアップデートするのが一番の薬ですが、それまでの応急処置としてはかなり効果的でした。
技術と人間、どっちも“相性”が大事
機械も人も、休み方と起き方が大切
このトラブルを通じて感じたのは、技術の世界でも“相性”がすべてだということです。どんなに高性能でも、OSとの呼吸が合わなければ動かない。それって、人間関係に似てませんか?(笑)
ある意味、25H2での修正はMicrosoftとMediaTekの「仲直り」みたいなもの。どちらかが一方的に変わるのではなく、互いに調整し合ってようやく安定する。その結果、世界中のユーザーがようやく平和を取り戻した──そんな印象です。
アップデートは怖くない
私は、Windowsの大型アップデートが出るたびに「不具合出るんじゃないかな…」と身構えるタイプです。でも今回の件で、“更新することで直る”ケースも確かにあることを痛感しました。
もし今、「接続済みなのに繋がらない」状態で困っている方がいたら、どうか怖がらずにWindows Updateを実行してみてください。案外、その一歩が長年の不調を吹き飛ばしてくれるかもしれません。
現場でのリアルな手応え
- Windows 11 25H2への更新だけで直った例が複数
- 残る場合も、電源管理の設定オフ+ac固定+5GHzでほぼ安定
- 出張時は、まず「ドライバのバージョンとOSブランチ」をチェックするのが鉄則
もし今、あなたのPCがWi-Fiで困っていたら、「更新したら直るかも」という希望を忘れないでください。今日も地球儀アイコンと闘うあなたに、エールを。