
事件です。ピカピカのRTX 5080を組み込んで、動作確認のつもりでGPU-Zを開いたら——「PCIe x16 5.0 @ x8 5.0」。……x8? 16本あるはずのレーンが、8本しかない。しかも今週、海外の掲示板でもまったく同じ悲鳴が立て続けに上がっています。いま進行中の、連続レーン消失事件です。
白状すると、私も昔これで青ざめた側の人間です。原因が分かるまでの数時間、頭の中は「初期不良」「返品」「再組み立て」の三語がぐるぐる回っていました。先に種明かしをしておくと、慌てて分解を始めた当時の私が、全面的に間違っていました。
今日はこの事件の容疑者を4人、順番に取り調べていきます。読み終わる頃には、ご自宅で犯人を特定できるようになっているはずです。よろしくお願いします。
取り調べの前に、現場検証から。無実の部品を疑って分解を始めると、事件が増えます(経験談)。確認には「GPU-Z」という定番の無料ツールを使います。起動して「Graphics Card」タブの「Bus Interface」欄を見てください。
ここで初心者がほぼ全員引っかかるポイントがあります。グラボは省電力のため、何もしていない時はリンク速度をわざと落として表示します。アイドル中の低い数字を見て「壊れた!」と騒ぐのは、寝ている容疑者を見て「亡くなっている!」と騒ぐようなものです。欄の横の「?」ボタンを押すとレンダーテストが走るので、負荷がかかった状態の数値で判断してください。
負荷をかけても「x16 5.0 @ x8 5.0」のように、@マークの後ろがx8のままなら、事件は本物です。この表示は「スロットは物理的にx16だが、動作しているのは8レーン」という意味になります。
店長より
では取り調べを始めます。容疑者は次の4人。M.2スロット、BIOSの設定、物理的な接触、そしてグラボ本人。怪しい順に呼び出します。
最有力容疑者です。実は最近のマザーボードには、特定のM.2スロットにSSDを挿すと、GPUスロットのレーンを半分持っていく設計のものが実在します。私はこれを「レーン泥棒」と呼んでいます。SSDを挿しただけで、グラボの16本が8本になる。知らずに食らうと、かなり理不尽に感じる仕様です。
たとえばASUSのROG STRIX Z790-Eは、公式スペック表に「M.2_1にSSDを装着した場合、PCIEX16(G5)はx8動作になります」とはっきり書かれています。書かれているんです。細字で。読まれないだけで。
ややこしいのはここからです。同じZ790チップセットでも、機種によって挙動がまったく違います。たとえばTUF GAMING Z790-Plus WiFiのM.2_1はCPU直結の専用レーンなので、SSDを挿してもグラボのレーンは1本も減りません。同じメーカー、同じ世代、同じチップセットなのに、です。
実際、海外の掲示板ではこの機種のユーザーが「M.2が犯人だと思って2年間怯えていたら、そもそもこの機種のM.2は無実だった」という顛末を経験しています。冤罪です。M.2スロット、時々冤罪を食らうんです。
つまり「M.2を挿すとx8になる」は、機種によって真実にも冤罪にもなります。判決を下せるのは、お手元のマザーボードのマニュアルだけです。
次の容疑者はBIOS。マザーボードによっては、PCIeレーンの分割(バイファーケーションと呼ばれます)を手動で設定でき、これが「x8/x8」などになっていると、M.2に関係なくグラボはx8で動きます。過去にM.2増設カードを使った時の設定が残っていた、中古で買ったら前の持ち主の設定が生きていた、というのが典型パターンです。
また、BIOSのバージョンによってレーンの割り当て挙動が変わったという報告もあります。設定に心当たりがなければ、初期化(Load Optimized Defaults)と最新版への更新で、この容疑者のアリバイを確認します。
地味ですが実在する容疑者です。グラボが最後まで刺さりきっていない、スロット内にホコリが溜まっている、ライザーケーブルの品質が足りない——接触が悪いと、レーンの一部だけ認識に失敗してx8やx4で繋がることがあります。最近の重量級グラボはその重さでスロットに負担をかけやすいのも追い風です。悪い意味の追い風ですが。
最後の容疑者は、まさかのグラボ本人です。取り調べ室に呼んだら「いや、私、最初から8本しか持ってないんですけど」と言われるケースがあります。
容疑者が出揃ったところで、切り分けの手順です。上から順に、1人ずつアリバイを確認していきます。
店長より
マニュアルに注記なし、SSDを動かしても変わらず、BIOSも初期化した、挿し直しもした——それでもx8のままなら、いよいよ「本当に壊れている」可能性が出てきます。海外のフォーラムには、M.2を全部抜いてもx8のままで、グラボを別のPCに挿したらx16で動き、最終的にマザーボード側のスロット故障と判明して交換に至った報告もあります。
ここから先は、検証用の予備パーツがないと切り分けが難しい領域です。当店でも、マザーボードとグラボをお持ち込みいただければ、レーン構成の確認から実機での検証までご一緒できます。自己判断でマザーボードの分解や修理に進む前に、一度立ち止まってください。
店長より
まとめます。「x16のはずがx8」の犯人は、多くの場合レーン泥棒——もとい、マニュアルにちゃんと書いてあった「正当な取り分」を持っていっただけのM.2スロットです。泥棒呼ばわりして申し訳なかった。この記事のタイトルごと謝罪します。
とはいえ、まれに本物の故障が紛れ込むのがこの事件の油断ならないところです。手順どおりに取り調べて、それでも容疑者全員のアリバイが崩せなかったら、そのときはプロの出番。伝えたいことは書きました。みなさんのレーン、16本全部が無事でありますように。














