
最近、お客様から「この機械、はんだしてもらえませんか?」というご相談をいただく機会が増えてきたんです。いわゆる“DAC(ダック)”とか、“ハイレゾ音源を扱うオーディオ機器”だとか、そういった精密な電子機器のご依頼です。
正直に言えば、これはちょっと悩ましい問題なんですよね。
なぜかというと、はんだ作業自体は決して嫌いじゃないし、むしろ成功すれば達成感もある。だけど、その作業の「重さ」と「責任」を知っているからこそ、簡単に「やりますよ」と言えないんです。
成功の陰にある“見えない時間”
よく言われるんです。
「はんだなんて、一瞬でしょ?」
確かに、はんだごてを当てる時間だけを見れば、一瞬です。でも、その“一瞬”を成立させるまでに、どれだけの時間と手間がかかっているかをご存じでしょうか。
例えば、基板の構造を確認し、どこが断線していて、どのチップが不良なのかを見極める調査。交換用の部品が入手可能かを調べる時間。代替品が互換性を持つかどうかの確認。部品が到着するまでの日数。純正部品が見つからないときの苦渋の選択。作業中に浮かぶ「これでいいのか」という不安。
——それらすべてが、あの“一瞬”の前にあるんです。
やりたい気持ち vs 現実とのせめぎ合い
こういうご依頼があると、正直、ちょっと心が揺れます。
「面白そうだな」「やってみたいな」って。でもその一方で、「これはうちで受けるべきじゃないかもな…」と頭を抱えることも多い。
特に、今まで手を出したことのない機器や、情報が乏しい海外製品などは、その難易度が跳ね上がります。部品が特殊だったり、回路設計に独自性がありすぎて修理よりも研究に近くなるケースもあります。
安請け合いできない理由
だからこそ、お伝えしておきたいことがあります。
うちでは、成功報酬型では対応していません。理由は単純で、調査にも作業にも、時間も労力もかかるからです。そして、成功する保証がない以上、「成功しなかったから支払いはゼロ」という仕組みは、どうしても成り立たないのです。
お客様としては「とにかく直してほしい」「費用はなるべく抑えたい」という気持ちは痛いほど分かります。でも、だからといって、こちらが“赤字覚悟で挑む”ような修理ばかりを続けてしまうと、店としての継続性が保てなくなります。
はんだは“魔法”ではない
ちょっと昔の話ですが、あるとき「ここにはんだしておいてよ」と軽く言われた修理をお受けしたんですが、ふたを開けたら細かな部品が密集していて、はんだ作業というより「爆弾処理」みたいな感覚でした。
結果として、成功はしたんですが、全体で6時間以上かかりました。その間、お昼も食べられず、コーヒーも冷めてしまい、肩はバキバキ(笑)…いや、笑えないか。
最後に、お願いです。
「この作業、どれくらいでできる?」「いくらでできる?」とお聞きいただく前に、まずは“その作業の背景にある重み”を想像していただけると嬉しいです。
もちろん、可能な限りご希望に沿いたいと思っています。でも、その上で「調査費用」や「作業工賃」は必ず発生するということ。そして「安くて早くて確実」な修理は、はんだ作業においては、どうしても難しいという現実があります。
冷たく聞こえたら申し訳ありません。でもこれは、「ちゃんと直す」ことを真剣に考えているからこその本音なのです。
どうか、少しでもご理解いただけると幸いです。