データ復旧でやってはいけないことは、実は数が少ないです。フォーマットしない、修復ツールをかけない、異音がしたら通電しない。ほぼこの3つで足ります。
やっかいなのは、この3つが全部「やった直後は成功して見える」ことです。chkdskは完了メッセージを出し、フォーマットは一瞬で終わり、ドライブは開けるようになる。失敗が、失敗の顔をしていません。
私はこれを「静かな合格点」と呼んでいます。調べて問題がなかったときと、そもそも何も調べていないときとで、画面に同じ文字が出てしまう状態のことです。この記事は、静かな合格点に騙されずに媒体を守るための順番の話です。
先に結論
読めなくなった媒体でやってはいけないのは、書き込みを伴う操作と、通電を続けることです。フォーマット、chkdsk、修復ツール、そして異音がする媒体を粘って読ませること。
正しい順番は「止める → 短く確認する → 丸ごと退避する → 写したファイルから取り出す」です。取り出しは最後で、いちばん最後です。
データ復旧で最初にやってはいけないのは「そのまま使い続ける」
ファイルを消してしまった。フォルダが空になっている。ドライブが開かなくなった。どの状況でも、いちばん最初にやるべきことは同じです。その媒体を使うのをやめることです。
理由が2つあります。ひとつは上書きです。消したファイルは、実際にはすぐ消えているわけではなく、その場所を「空き」として登録し直しているだけのことが多い。だからその媒体を使い続けると、空きと登録された場所に新しいデータが書かれていきます。使えば使うほど、戻せる分が減っていきます。
もうひとつは劣化です。弱った媒体は、読むだけでも状態が悪くなります。何度もコピーを試す、何度もスキャンをかける。それは診断のつもりでも、媒体にとっては全部「負荷」です。診断のために弱った媒体を酷使するのは、順番が逆です。
この3つが出たら、ソフトで粘らないでください
カチカチという音がする。異常に熱い。認識が付いたり消えたりする。このどれかが起きている媒体は、通電を続けるほど取り出せる量が減っていきます。カチカチ音は中の部品が物理的に壊れかけている音で、ソフトでは手が出ません。電源を抜いて、分解作業ができる専門業者へご相談ください。「もう一回だけ試す」がいちばん傷を広げます。
店長より
店頭でよく聞くのが「一晩かけてコピーを試した」です。お気持ちはよく分かるのですが、弱った媒体にとっては一晩ぶん余計に読ませたことになります。持ち込んでいただく前に電源を抜いてもらえると、それだけで結果が変わることがあります。
「フォーマットしますか」と chkdsk は、なぜ危ないのか?
どちらも媒体に書き込む操作だからです。読み取るだけの操作と、書き込む操作のあいだには、取り返しがつくかどうかという決定的な差があります。
「フォーマットする必要があります」は、中身が消えた合図ではない
USBメモリやSDカードを挿した瞬間にこれが出ると、多くの人が「中身が消えた」と受け取ります。実際に起きているのは、そうではありません。どこに何のファイルがあるかを記録した目次のほうが壊れているだけで、中身は残っている可能性が高い状態です。
ここで「はい」を押すと、Windowsは新しい目次を書き込みます。中身が全部その瞬間に消えるわけではありませんが、手がかりを1枚失った状態から探し直すことになります。押さないでください。
chkdsk は、データを守る道具ではない
「ドライブを修復しますか」と聞かれたとき、あるいはネットの記事で勧められたときに実行してしまうのがこれです。chkdskは優秀なツールですが、目的が違います。ファイルシステムの辻褄を合わせるための道具であって、あなたのデータを守るための道具ではありません。
一次情報
Microsoftの公式ドキュメントによると、chkdskが論理エラーを修正するのは /f を指定した場合のみで、修正のためにはドライブをロックできる必要がある。そしてFATファイルシステムに対する修復は通常ディスクのファイルアロケーションテーブルを変更するため、ときにデータの損失を引き起こす。だから失われた領域をファイルに変換してよいか、確認のメッセージが表示されることがある、と書かれている。データが失われる可能性は、Microsoft自身が明記している内容です。
同じ理屈で、復旧ソフトの「修復」機能も後回しです。パーティションを直す、ファイルシステムを直すといった機能は、たいてい元の媒体に書き込みます。直したければ、退避した写しに対してやればいい。写しなら何度でもやり直せます。
それから、SSDには追加の事情があります。SSDには消したデータを裏側で本当に消してしまう仕組みがあり、削除したファイルの復元はHDDより条件が悪くなります。時間が経つほど不利になるので、SSDで消してしまった場合はとくに手を止めるのが早いほど有利です。
その「異常なし」は、静かな合格点かもしれない
診断ソフトを走らせて「異常なし」と出たとき、それを鵜呑みにしてそのまま使い続ける。ここが2番目に多い事故です。
不良セクタ0件。検出なし。異常なし。この手の表示に共通しているのは、調べた結果として問題がなかった場合と、そもそも調べられなかった場合とで、同じ文字が出てしまうことです。これが静かな合格点です。
読み取れること
そのソフトが実際に調べた範囲では、問題が見つからなかった。これだけです。調べた範囲が媒体の何割だったのか、どの項目を確認できたのかまで表示されているなら、その表示は信用できます。
読み取れないこと
調べていない範囲がどれだけ残っているか。取得できなかった項目があったのかどうか。ここが表示されないソフトの「異常なし」は、健康診断を受けずに「異常なし」と言われているのと同じ構造です。
典型的なのが、媒体自身が持っている自己診断の記録です。USB変換をはさんだ接続だと、この記録が取得できない個体があります。以前ほど多くはなくなりましたが、いまも残っています。
一次情報
診断ソフト CrystalDiskInfo の公式サイトには、2025年9月14日付でこう追記されています。現在市場に流通している外付けのUSB接続ドライブは、その多くが中身を見られるようになった。ただし複数のドライブを収められる製品は対応していないことが多い。開発当初は中身を見るための共通の手順が普及しておらず、メーカーごとの独自手順に個別対応する必要があった、とのことです。つまり読める個体は増えましたが、読めない個体はいまも残ります。
重要なのは接続方式そのものではありません。取得できなかったときに何と表示されるか、です。「取得できませんでした」と出るソフトなら問題ありません。空欄になったり、良い側の初期値で埋まったりするソフトだと、静かな合格点が生まれます。店頭では、SATAに直結し直して同じ診断をもう一度かけて確かめています。この表示の問題を突き詰めて自分で診断ソフトを作った経緯はデータ復旧ソフトを自作したときの記録にまとめています。
ここまで書いてきて、静かな合格点というのは道具の中だけの話ではないな、と思いました。chkdskの完了メッセージも、一瞬で終わるフォーマットも、開けるようになったドライブも、全部そうです。操作が成功したことと、目的が達成されたことが、同じ顔をして表示される。人間の側の画面でも同じことが起きている。
……という話をこれ以上続けると、修理の記事なのか画面設計の講釈なのか分からなくなってきます。手順に戻ります。
正しい順番は、退避が先で取り出しが後
多くの人がやってしまうのは、いきなり本体からファイルを探しにいくことです。気持ちは分かります。目的はファイルなので。ただ、これは弱った媒体を何度も読ませる行為でもあります。
先にやるべきは退避です。イメージとは、媒体の中身をセクタ単位でまるごと1個のファイルに写し取ったものである、と考えてください。写真のネガのようなものです。一度だけ読んで写しを作り、それ以降は写しだけを相手にする。これが、取り出せる量をいちばん増やす順番です。
1
電源を止めて、状況を書き出す
いつから、どんな表示が出て、これまで何を試したか。この3つをメモしてください。相談するときにいちばん効くのがこの情報です。すでにフォーマットやchkdskを実行していても、隠さず伝えてください。方針が変わります。
2
短い読み取りテストで傾向だけ掴む
全面をスキャンする前に、数か所だけ読んで反応を見ます。読めない場所や、極端に時間がかかる場所が出た時点で、全面走査はやめてください。その媒体は診断より救出を優先すべき状態です。
3
別の物理ドライブへ丸ごと退避する
保存先は必ず別のドライブです。同じ媒体に保存しようとすると、自分で自分を上書きします。空き容量は元の媒体と同じだけ必要で、500GBの媒体を丸ごと写すなら500GBの空きが要ります。読めない場所に当たったら、そこで一度止めて判断してください。
4
写したファイルから取り出す
ここでようやくファイル探しです。写し相手なので、何時間かけても、何回失敗しても元の媒体は減りません。目次が壊れていてフォルダをたどれない場合は、中身の並びから直接ファイルを見つける方法に切り替えます。
退避が終わったとき、ひとつだけ確認してほしいことがあります。「不良セクタ0件」と「全部取れた」は別のことです。読めなかった場所が0件でも、まだ読んでいない場所が残っていることがある。未取得の量を表示するソフトなら、そこを見てください。実機で試したときは、768MiB残っていた未取得が、続きから再開する機能で30MiBまで減りました。諦める前に、続きからやり直せないかを確認する価値があります。
電源を入れ直す前に、決めておくこと
最後に、いま媒体を前にしている方向けにまとめます。
電源を入れる前のチェックリスト
✓
異音・異常な発熱・認識の点滅がないか確認する。あるなら電源は入れず、専門業者に相談する
✓
出てきたダイアログには、まず「いいえ」か「キャンセル」を押すと決めておく
✓
退避先の空き容量を先に用意する。元の媒体と同じ容量が必要
✓
「修復」「フォーマット」「最適化」と名の付く機能には触れないと決めておく
店長より
すでにフォーマットやchkdskを実行してしまった方も、そこで終わりではありません。伝えていただければ、そこから何が残っているかを見る手順があります。言いにくいことほど先に教えてもらえると助かります。
この記事の要点
静かな合格点を疑う癖がつけば、データ復旧でやってはいけないことのほとんどは自然に避けられます。
完了しました、異常なし、修復できました。どれも良い知らせに見えますが、何も調べていないときにも同じ文字が出ます。何をどこまで調べた結果なのかが書かれていないうちは、まだ判断しないでください。
Q
もうフォーマットしてしまいました。データは戻せませんか?
A
戻せる可能性は残っています。通常のフォーマットは目次を作り直す操作で、中身のデータをその瞬間に全部消すわけではないからです。ただしフォーマット後にその媒体を使い続けると、上書きされて可能性が減ります。いますぐ使用をやめてください。SSDの場合はHDDより条件が悪くなります。
Q
chkdsk をかけてしまいましたが、もう手遅れでしょうか?
A
手遅れとは限りません。chkdskを実行したからといってデータが全部消えるわけではなく、ファイル名や置き場所の情報が失われて、中身だけが残っている状態になることが多いためです。この状態でも、中身の並びから直接ファイルを見つける方法が使えます。それ以上の操作を止めて、いまの状態のまま退避してください。
A
読み取りだけで動くものなら試して構いません。避けてほしいのは2つで、ひとつは「修復」機能を使うこと、もうひとつは複数のソフトを次々に試すことです。どちらも媒体への負担が増えます。試すなら1本に絞り、退避してから写しに対してかけてください。
この記事を書いた人
ピシコ店長
苫小牧市のパソコン・スマホ修理店「ピシコ」店長。PC・スマホ修理歴16年。店頭での実際の修理事例をもとに、地域の方に役立つ情報を発信しています。
プロフィール詳細
迷っている時間は、媒体を減らしません。
減らすのは操作のほうです。いま何が表示されていて、これまで何を試したか。それだけ送っていただければ、次の一手はお答えできます。電源は抜いたままで構いません。
まずはご相談から
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