
HPが2026年の4月に配布したBIOSアップデート(ファームウェアの更新)を適用したパソコンで、起動時にこんな画面が出るようになりました。
電源を入れてもHPのロゴが出たまま進まない。Windowsが起動する前に止まってしまう。
起動すると「BitLocker 回復キーを入力してください」という青い画面が出る。正しいキーを入力してWindowsに入れても、次の再起動でまた同じ画面が出る。これが延々と繰り返される。
Windowsのセキュリティ証明書の更新が途中で止まったまま完了しなくなる。
影響を受けているのは、HPの法人向けノートPC・デスクトップ・ワークステーションの全機種で、Windows 11(23H2・24H2・25H2)を使っているもの。特に「HP ZBook Ultra G1a」などの高価格帯ワークステーションで多く報告されています。
「BitLocker(ビットロッカー)」というのは、Windows 11に標準で入っているデータ暗号化の機能です。ハードディスクやSSDの中身をまるごと暗号化して、「このパソコンから正規の手順で起動した場合だけ読み書きできる」ようにする仕組みです。
企業のパソコンによく使われていて、「万が一ノートPCを紛失しても、データを第三者に読まれない」ためのセキュリティです。Windows 11 Proが入っている機種では、知らないうちに有効になっていることも珍しくありません。
BitLockerには「このパソコンの起動環境が変わったら、念のため本人確認をする」という機能があります。具体的には、TPMチップ(マザーボードに内蔵されているセキュリティチップ)が「起動時の測定値」を記録していて、その値が変わると「あれ?何か変わったぞ」と判断して回復キーを要求します。
今回の問題では、HPのBIOSアップデートがこの「測定値」を変えてしまったため、BitLockerが「環境が変わった=確認が必要」と判断して回復キーを求めてきた、というわけです。
ここが今回の問題の核心部分です。
BitLockerのループが終わらない理由は、HPのBIOSアップデートが「中途半端な状態で止まっている」からです。
本来、BIOSアップデートは「古い設定を完全に上書きして、新しい状態に切り替える」という処理が正常に完了するはずです。ところが今回のアップデートにはバグがあって、処理が途中で止まってしまっています。
つまり、BitLockerが壊れたわけでも、パソコン本体が壊れたわけでもない。BitLockerは正しく動いています。ただ、その下にあるBIOSが中途半端な状態のままなので、毎回「おかしいぞ」と反応し続けているんです。
話をもう少し広げると、今回の問題にはもうひとつの背景があります。
Secure Boot(セキュアブート)というのは、「正規のOSだけを起動させる」ためのセキュリティ機能で、これもパソコンの起動に深くかかわっています。このSecure Bootで使われている暗号の証明書が、2011年から使われてきた古いものから新しいものへ、業界全体で切り替わる時期が2026年の6月に迫っています。
HPが4月に配布したBIOSアップデートは、この証明書の切り替えに対応するためのものでもありました。セキュリティを強化するための更新が、逆にパソコンを壊してしまったという皮肉な状況です。
「Secure Boot 2023」対応のためにHPがBIOSアップデートを配布
↓
そのアップデートにバグがあってBitLockerループが発生
↓
さらに、本来完了するはずだったSecure Boot証明書の切り替えも止まったまま
セキュリティ強化のための作業が、2つのセキュリティ機能を同時に壊した、という事態です。
「セキュリティを強化すればするほど、何かが壊れたときの被害が大きくなる」というのは、IT業界で昔から言われていることです。それが今回まざまざと出てしまいました。
「BitLocker 回復キー」を今すぐ確認してください。
Microsoftアカウントにサインインして https://account.microsoft.com/devices/recoverykey から確認できます。回復キーがない状態でこの症状になると、データにアクセスできなくなる可能性があります。
現時点でHP公式が案内している対処は主に以下の流れです。
もしHPの法人向けPCをお持ちで、今のところ問題なく動いているなら、
Microsoftアカウントの管理画面、または職場のIT管理者に確認を。
今後修正版が出たタイミングで適用する。急いで古いアップデートを当てるのはNG。
ちょっと話が広くなりますが、個人的な感想も書いておきます。
「アップデートはちゃんとしましょう」というのはセキュリティの基本中の基本なんですが、今回みたいにアップデートそのものがトラブルの原因になってしまうケースもあります。特にBIOSのアップデートはWindowsの更新より慎重さが必要で、「うまくいかなかったとき」の対処がWindowsの更新より一段難しい。
だからといって「アップデートしなければよかった」という話にはならなくて、今回の問題は「HPの検証が不十分だった」というのが本質です。HPは問題を認めてサポートドキュメントを出しているので、その案内に従って対処するのが今できる正しい選択肢です。
それと、今回のことで改めて感じたのが「BitLocker回復キーの管理」の重要さです。今回の症状を経験したユーザーの中には「回復キーなんて知らなかった」という方も多かったようで、そういう場合はデータへのアクセスを失うリスクがあります。HPのPCに限らず、BitLockerが有効になっているパソコンを使っている方は、回復キーの保存場所を一度確認しておくことを強くおすすめします。















