
FakeGit(フェイクギット)が、10 月に入ってまた動き出しました。FakeGit は、開発者がプログラムを公開する場所「GitHub」に、本物そっくりの偽リポジトリを大量に置き、ダウンロードした人のパソコンから情報を盗むマルウェアの配布作戦です。7 月に約 7,600 件の偽リポジトリが報告され、10 月には 17,610 件に増えた状態で再来したと報じられました。
「GitHub に載っている無料ツールだから大丈夫」と思って ZIP を開いたあとで、急に不安になった方もいると思います。この記事では、報道と研究機関の資料で分かっている範囲の手口と、入れる前に見る場所、そしてもう開いてしまったときの落ち着いた順番をまとめます。
先に結論:FakeGit の偽リポジトリは、README の「Download」ボタンから ZIP を落とさせ、中の仕掛けで SmartLoader と StealC を入れて、ブラウザに保存したパスワードやログイン状態を盗みます。GitHub のツールは、公式サイトからのリンクでたどり着いたものだけを入れ、README のボタンから直接 ZIP を落とさないのが基本です。
すでに ZIP の中身を実行してしまったなら、そのパソコンをネットから外し、別の端末からメール・銀行・SNS のパスワードを変えてください。そのパソコンでログインし直すのは後回しにします。
FakeGit とは何か。GitHub の偽リポジトリで何が起きているのか
GitHub は、世界中の開発者がプログラムを公開し、直し合う場所です。本物のフリーソフトや便利ツールの多くがここで配られています。だからこそ「GitHub にあるなら本物だろう」という思い込みが生まれ、FakeGit はその思い込みにそのまま乗っかっています。
用語:リポジトリとは、GitHub 上でひとつのソフトのプログラム・説明書(README)・配布ファイルをまとめて置いておく場所のことです。お店で言えば「1 つの商品棚」にあたり、棚の看板にあたるのが README です。
7 月の報道と、10 月の再来の報道で分かっている数字を並べます。数字は出典の資料のものです。
| 項目 | 2026 年 7 月の報告 | 2026 年 10 月の報告 |
|---|---|---|
| 調べた会社 | Island | Apiiro |
| 偽リポジトリ | 約 7,600 件 | 17,610 件 |
| 使われた作者 | 偽の作者 約 6,600 | 本物の開発者とみられる作者 700 以上を含む |
| 勢い | AI 関連は 4 月が最多(約 300 件) | 10 月 4 日に再開。34 時間で 13,000 件超 |
| 中身 | SmartLoader → StealC | SmartLoader → StealC |
10 月の再来でいちばん嫌なのは、件数より「作り直していない」点です。Apiiro の研究者は、偽リポジトリの群れはすでにそこにあって、リンクの向き先を変えただけだと説明しています。一度消し損ねた偽物は、いつでも同じ場所から再び撃てるということです。
FakeGit は 10 月 4 日に活動を再開し、GitHub 上の 17,610 件のリポジトリを使っている。34 時間で 13,000 件以上を送り出し、最も多いときで 1 時間に 2,999 件だった。調べた変更の 97% は README だけを書き換え、88% は「Download」ボタンを SmartLoader を入れる ZIP に向けていた。
出典:BleepingComputer「FakeGit malware campaign returns with 17,610 malicious GitHub repos」
7 月の報告では、作戦全体で 1,400 万回を超えるダウンロードがあったとされています。ただ、この数字の読み方には少し注意が要ります。
メモ:「1,400 万回」はダウンロードの回数で、感染した台数ではありません。この数には自動のアクセスやボットの通信も含まれると説明されています。大きな数字に驚くより、「自分がその 1 回に入っていないか」を確かめるほうが役に立ちます。
FakeGit の手口。README の「Download」ボタンから ZIP を開かせる
偽リポジトリが装っていたのは、Gmail・WhatsApp のような身近なものから、Docker・Jenkins・Databricks のような仕事の道具まで幅広く報告されています。本物のプロジェクトをまるごと写し、説明文もそっくり、スター(いいね)の数まで水増しされている例もあります。違うのは README の「Download」ボタンの行き先だけ。私はこれを「看板すり替え」と呼んでいます。棚も商品の説明も本物で、看板の矢印だけが裏口を指している状態です。
README の指示どおりに ZIP を開くと何が起きるか
研究機関の資料によると、流れは毎回ほぼ同じです。ZIP の中には起動用のファイルと、名前を偽装した実行環境、読めないように加工されたプログラムが入っています。これを開くと SmartLoader という「運び屋」が動き、パソコンに居座る設定(スケジュールされたタスク)を作ったうえで、本命の StealC を取ってきます。
ZIP には起動用のスクリプト、偽装した LuaJIT の実行環境、難読化した Lua のプログラムが入っている。実行すると SmartLoader がスケジュールされたタスクで居座り、StealC を取得する。StealC はパスワード、Cookie、トークン、SSH 鍵、画面のスクリーンショット、パソコンの情報を集める。
出典:Cloud Security Alliance「FakeGit and AgentBaiting: Malicious Repos Target AI Agents」
Cookie が盗まれるということは、パスワードを知らなくても「ログインしたままの状態」を持っていかれるということです。二段階認証を設定していても、ログイン済みの状態ごと持ち出されると、すり抜けられることがあります。ここが単なる「パスワード流出」より厄介なところです。
AI スキル・MCP サーバーを装う「AgentBaiting」とは
7 月の報告で目を引いたのは、800 件を超える偽リポジトリが AI 向けの「スキル」や「MCP サーバー」を装っていたことです。MCP サーバーは、AI にメールやファイルなど外の道具を使わせるための追加部品のようなものです。さらに 600 件を超える偽物が、AI ツールの公開一覧サイトにも載っていました。
ここ、見落としがちです:AgentBaiting は、人ではなく AI に偽物を見つけさせる手口です。AI に「Gmail とつなぐ道具を探して」と頼むと、AI が偽リポジトリを拾い、その説明書を信じて入れ方を勧めることがあります。AI が勧めたから安全、ではありません。AI が出した入手先も、人が見て確かめる必要があります。
ここで少し深掘りすると、この作戦が賢いのは「人の警戒心」ではなく「人の手間の省き方」を狙っている点です。リンクを自分で探す代わりに AI に探させる、説明を読む代わりにボタンを押す。どちらも便利になったぶん、確かめる工程が 1 つずつ消えています。……と、ここまで書いてブレーキをかけます。家庭のパソコンでやることは、もっと地味で足ります。

家庭や小さなお店で関係あるのはどんな人?
「GitHub なんて開いたことがない」という方は、今回の話は直接は関係ありません。ただ、GitHub という名前を知らなくても、検索や動画の紹介から GitHub のページに着いて、ZIP を落としていることはあります。次に 1 つでも当てはまるなら、自分ごととして読んでください。
- 動画やブログで紹介された「無料ツール」「便利ソフト」を、紹介文のリンクから入れたことがある
- ChatGPT などの AI ツールと Gmail や表計算をつなぐ道具を試したことがある
- ゲームの改造ツールや、動画のダウンロードツールを GitHub から入れたことがある
- お店や事務所のパソコンで、ネットショップや会計の作業と同じブラウザを使っている
- ブラウザにパスワードを覚えさせ、同じパスワードをほかのサービスでも使っている
最後の 2 つは、ZIP を開いた本人以外にも被害が広がる条件です。お店のパソコンで盗まれたのがネットショップの管理画面のログイン状態だったら、困るのは自分だけではありません。家庭なら、家族と共有しているアカウントがそれにあたります。
情報を盗むタイプのマルウェアは、偽の CAPTCHA 画面のような別の入口からも入ってきます。入口は違っても、盗まれるものと、そのあとの対処はほとんど同じです。

入れる前に見る場所。偽リポジトリを避ける確かめ方
偽物は本物を写しているので、見た目で見分けるのは難しくなっています。10 月の報告では、本物の開発者のものとみられるアカウントまで使われていました。だから「作者が有名だから大丈夫」だけでは足りず、どこから来たかをいちばんに見ます。
- そのツールの公式サイトや、メーカーの説明ページからのリンクで GitHub に来たか
- 検索結果・動画の紹介文・AI の答えから直接来た場合は、名前で公式サイトを探し直したか
- README の「Download」ボタンではなく、公式サイトに書かれた入手方法に従っているか
- スターの数だけで判断していないか(水増しの報告がある)
- 落とした ZIP の中に、説明に無い実行ファイルやスクリプトが入っていないか
- 仕事やお金のログインが入っていないパソコンで試しているか
同じ名前のリポジトリがいくつも並んでいたら、それ自体が注意の合図です。本物は 1 つで、残りは写しか、写しのふりをした偽物かもしれません。迷ったときは「入れない」を選んでも、困ることはほとんどありません。
ウイルス対策ソフトも頼りになりますが、万能ではありません。10 月の報告では、偽リポジトリの 71% が、悪意ある URL を集めた公開の一覧(URLhaus)に報告前の時点で載っていなかったとされています。守りの一覧に載る前の偽物は、すり抜ける可能性があるということです。
もう ZIP を開いてしまったときの順番
ZIP を落としただけで、中のファイルを実行していないなら、ZIP を削除してごみ箱も空にすれば足ります。問題は、中のファイルをダブルクリックした、または README の指示どおりに何かを動かした場合です。その場合は、下の順番で進めてください。
注意:疑わしいパソコンの上でパスワードを変えないでください。StealC のような情報を盗むマルウェアが動いていれば、新しいパスワードもそのまま盗まれます。変更は必ず、スマホや別のパソコンなど、問題のファイルを開いていない端末から行います。
- そのパソコンを Wi-Fi から外すか、LAN ケーブルを抜く。電源は切らずにそのままでかまわない。
- 別の端末から、メール・銀行・ネットショップ・SNS のパスワードを変える。メールを最優先にする(ほかのパスワードの再設定がメールに届くため)。
- 同じ端末から、各サービスの「すべての端末からログアウト」を実行する。盗まれたログイン状態(Cookie)をここで無効にする。
- 二段階認証を設定していないサービスは、この機会に設定する。同じパスワードを使い回していた先も全部変える。
- 問題のパソコンは、マルウェアが残っていないことを確かめるまで、ログインが要る作業に使わない。
ブラウザに保存したパスワードが盗まれるタイプだと何が困るか
ブラウザに覚えさせたパスワードは、本人が覚えていないことが多く、「何が盗まれたのか」を思い出せません。手順 2 で変える先を書き出すときは、スマホからブラウザのパスワード管理の一覧を見て、上から順に片付けると漏れが減ります。仕事で使っている人は、開発用のトークンや SSH 鍵も取り消して作り直す対象です。
SmartLoader はスケジュールされたタスクで居座るため、ZIP を消しただけでは終わっていない可能性があります。パソコンの中に残っていないかの確認や、初期化してデータだけ移すかの判断は、ご来店か出張で実機を見ながら行えます。

よくある質問
GitHub のツールは全部危ないのですか?
いいえ、GitHub のツールの多くは本物です。ただ、本物をそっくり写し、スター数まで水増しした偽リポジトリが報告されています。公式サイトからのリンクでたどり着いたものだけを入れ、README の Download ボタンから直接 ZIP を落とさないようにしてください。
ZIP を開いてしまいました。まず何をすればいいですか?
まずそのパソコンをネットから外し、スマホなど別の端末からメール・銀行・SNS のパスワードを変えてください。あわせて各サービスで「すべての端末からログアウト」を行います。ZIP を落としただけで中身を実行していないなら、ZIP を削除すれば足ります。
ウイルス対策ソフトが入っていれば大丈夫ですか?
防げる場合もありますが、大丈夫とは言い切れません。FakeGit の偽リポジトリの多くは、報告される前は悪意ある URL の一覧に載っていなかったとされています。入れる前に入手先を確かめることと、パスワードを使い回さないことを合わせて行ってください。
まとめ
FakeGit は、GitHub に本物そっくりの偽リポジトリを置き、README の「Download」ボタンから ZIP を開かせて SmartLoader と StealC を入れる作戦です。7 月に約 7,600 件が報告され、10 月 4 日からは 17,610 件の規模で再び動いていると報じられました。盗まれるのは、ブラウザのパスワードやログイン状態です。
棚も説明も本物で、看板の矢印だけが違う「看板すり替え」は、見た目では見抜けません。だから入れる前は公式サイトを 1 回経由する、開いてしまったら別の端末からパスワードを変える。この 2 つを覚えておけば足ります。開いたかどうか分からない、パソコンに残っていないか見てほしいという方は、ご来店か出張で気軽に相談してください。










