スマホが熱い。その冷やし方をひとつ間違えると、水に落としてもいないのに水没します。この夏、店頭で一番お伝えしたいのがこの話です。
暑くなると必ず見かけるのが、熱を持ったスマホをエアコンの吹き出し口に近づけるあの動作。私も昔やっていました。良かれと思ってやったその行為が、本体の内側で「隠れ水没」を起こす引き金になります。
先に結論
熱くなったスマホは、電源を切って直射日光を避けた涼しい場所に置き、自然に冷ますのが正解です。エアコンの冷風や保冷剤で急に冷やすと、本体内部に結露が発生して「隠れ水没」を起こします。
防水スマホも例外ではありません。IPX7以上の防水性能は本体の外側にある水を防ぐための規格で、内側で発生する結露は守備範囲に入っていないためです。
スマホが熱いとき、エアコンの冷風で冷やしていい?
毎年8月になると、店頭で同じやり取りをします。「スマホが熱くて画面が暗くなるんです」「どうやって冷やしていましたか?」「エアコンの前に置いてました」。ここで私の背筋が伸びます。
熱くなったものを冷たい風に当てる。理屈としては合っています。合っているからこそ、みんなやってしまう。問題は、その風が思っているよりずっと冷たいことです。
一次情報
2026年8月6日に公開されたITmedia Mobileの記事によると、エアコンやクーラーの吹き出し口時点における風の温度は6〜15度程度。日本の夏の空気には多くの水蒸気が含まれ、それはスマホの内部にも入り込んでいます。水蒸気は急激に冷やされると液体の水に戻るため、本体の内側で結露が生じるとされています。同記事は、日本で販売されているスマホの多くが備えるIPX7等級以上の防水性能について、本体の外にある水からの防護であって内部の結露に対する防護は含まれない、とも指摘しています。
6度です。真夏の冷蔵庫の中と、そう変わりません。
温度差が大きいほど、スマホの中は濡れる
画面が暗くなるほど熱を持ったスマホは、内部の空気までしっかり暖まっています。そこへ6度の風が当たる。冬に暖かい部屋の窓ガラスが真っ白に曇るのと、起きていることは同じです。違うのは、曇る場所が窓ではなく基板の上だという一点だけです。
用語:結露とは
結露とは、空気中の水蒸気が冷たいものに触れて冷やされ、液体の水に戻る現象である。空気が抱えられる水蒸気の量は温度が下がるほど減るため、抱えきれなくなった分が水滴となって現れます。窓ガラスや冷たいコップの表面で見慣れたこの現象が、スマホの内部でもそのまま起きます。
やっかいなのは、外側からは何も見えないことです。ケースを外しても、画面を見ても、いつも通りのスマホです。
店長より
濡らした覚えがまったくないのに水没反応が出ている、というご相談は毎年いただきます。分解すると基板に水の通った跡が残っていて、お客様が一番驚かれます。
防水スマホなら結露しても大丈夫?
「うちのスマホ、防水だから平気でしょ」。店頭で最も多く聞く台詞であり、そして最も惜しい誤解でもあります。
防水等級というのは、外から入ってこようとする水に対する性能を示したものです。内側で生まれた水については、そもそも試験の対象になっていません。
用語:IPX7とは
IPX7とは、国際規格IEC 60529にもとづき、一時的に水中へ沈めても内部に水が入らないことを示す防水等級である。IPX8はさらに継続的な浸水に耐える等級を指します。いずれも管理された実験室の条件下で行う試験であり、本体の内部で発生する結露を想定した規格ではありません。
そしてもうひとつ。メーカー自身が、温度と湿度の急な変化を避けるようはっきり書いています。
一次情報
Appleは公式サポート文書で、iPhoneの動作温度を0〜35度と定めたうえで、温度や湿度が急激に変化する場所に放置しないよう案内しています。避けるべき行為としてサウナやスチームルームでの使用、極度に湿度の高い条件下での動作も挙げられています。さらに、防沫・耐水・防塵性能は永続的に維持されるものではなく通常の使用によって低下する可能性があること、水濡れによる損傷は保証の対象外となることも明記されています。
読み替えると、防水等級は結露の免罪符にはならない、ということです。
しかも修理の現場では、原因が結露だったのか水たまりだったのかを本体は区別してくれません。残るのは水濡れの痕跡だけです。心当たりがなくても、記録のうえでは水没した端末になります。
これをやると壊れます
凍った保冷剤を当てる、氷水に浸ける、冷蔵庫や冷凍庫に入れる。この3つは避けてください。エアコンの冷風よりもさらに温度差が大きいぶん、内部で結露が起きる可能性が高くなります。冷蔵庫から出した直後は本体の表面まで濡れることがあり、その状態で充電すると基板がショートするおそれがあります。
苫小牧は涼しいから安心、が一番あぶない
ここまで読んで、道民のみなさんはこう思っているはずです。「それ、本州の話でしょ」と。私も最初はそう思っていました。
気象庁の平年値を引っぱり出してきて、考えを改めました。
※湿度は気象庁の平年値(1991〜2020年・苫小牧)。露点は平均気温20.4℃・平均相対湿度86%からの計算値です
露点というのは、空気が水蒸気を抱えきれなくなって結露が始まる温度のことです。苫小牧の8月は平均気温20.4度に対して平均相対湿度が86%。ここから計算すると露点はおよそ18度になります。エアコンの吹き出し口の風は、その18度をまるごと下回っています。
ついでに調べたら、苫小牧の年間の霧日数は42.6日、7月にいたっては月に10日以上も霧が出ていました(気象庁・苫小牧の平年値)。気温は上がらないのに、空気は水をたっぷり抱え込んでいる土地なわけです。猛暑にならないことと、結露が起きないことは、まったく別の話でした。
……と、ここまで露点の計算で盛り上がってしまいましたが、みなさんに必要なのは計算式ではありませんでした。持ち帰っていただきたいのは一行だけです。涼しい町でも、急に冷やせば中は濡れる。
店長より
要注意なのが車の中です。窓を閉め切った車内でスマホが熱を持ち、慌ててエアコンを全開にして吹き出し口に立てかける。外が22度でも、この温度差はしっかり開きます。
正しい冷やし方はこの4ステップ
Appleが公式に案内している対処は、拍子抜けするほど地味です。地味ですが、これが確実です。
1
使うのをやめて、電源を切る
熱の発生源はスマホ自身の処理です。使い続けている限り冷えません。まず電源を切ります。
2
直射日光を避けた涼しい場所に移す
日陰や、室内の風通しのよい場所へ。エアコンの吹き出し口の正面だけは避けてください。
3
ケースを外して、温度が下がるまで待つ
ケースは熱をためます。外したうえで、充電ケーブルもつながずに待ちます。iPhoneの動作温度は0〜35度が目安です。
4
急ぐときは、冷やされていない風を当てる
うちわや扇風機の風なら温度差がほとんど生まれないため、結露の心配がありません。冷たい風ではなく常温の風、と覚えてください。
結露・水没が疑われるときの応急処置
カメラのレンズの内側が曇っている、充電コネクタで液体を検出したという警告が出る、電源が落ちて入らない。このあたりが出たら、対処を切り替えてください。
この段階で慌てて操作した結果、直せたはずの端末が直らなくなる。店頭で見てきたなかで、いちばん惜しいパターンです。
1
電源を切り、充電をやめる
濡れた状態で通電させるのが最も危険です。ケーブルとアクセサリをすべて外してください。
2
やわらかい布で外側の水気を拭く
糸くずの出ない布が理想です。コネクタ側を下に向けて手のひらに載せ、軽く叩いて余分な水分を出します。
3
風通しのよい乾いた場所で自然乾燥させる
Appleはコネクタに常温の風を当てると乾きが早くなる場合があるとしています。充電を再開するのは最低5時間は経ってから、というのが公式の案内です。
4
症状が残るなら修理店へ
乾かしても動作がおかしい場合、内部で腐食が進んでいる可能性があります。時間が経つほど基板の状態は悪くなるため、判断は早いほうが有利です。
そして、乾かし方には公式に禁じられているものがあります。
乾かし方を間違えると、そこで終わります
高温の熱源で乾かす、コネクタに綿棒やペーパータオルなどの異物を挿し込む、乾ききる前に充電する。Appleはこの3つをいずれも避けるよう案内しています。あわせて、米の袋に入れる方法についても、米の小さな粒子が原因で本体が損傷するおそれがあるとして明確に否定しています。
よくある質問
店頭で実際に聞かれることが多い3つをまとめておきます。
A
大丈夫とは言えません。IPX7以上の防水等級は本体の外側にある水に対する性能を示すもので、内部で発生する結露は対象に含まれていません。Appleも水濡れによる損傷は保証の対象外と明記しています。
Q
冷蔵庫や保冷剤でスマホを冷やしてもいいですか?
A
避けてください。エアコンの冷風よりも温度差が大きくなるため、内部で結露が起きる可能性がそのぶん高くなります。急いで冷やしたいときは、うちわや扇風機で常温の風を当ててください。
Q
結露で電源が入らなくなったら、自分でできることはありますか?
A
電源を入れ直したり充電したりせず、まず完全に乾かすことを優先してください。乾かしても改善しない場合は内部で腐食が進んでいる可能性があるため、早めに修理店へご相談ください。
隠れ水没は、水辺にいなくても、涼しい町にいても起きます。露点18度の町に住んでいる私たちは、むしろ本州の方より丁寧に冷やしたほうがいいくらいです。
店長より
熱を持ったスマホは、急いで冷やすよりそっと置いておくほうが、結果的に早く元に戻ります。急がば回れ、が今年の夏の合言葉です。
この記事を書いた人
ピシコ店長
北海道苫小牧市のパソコン・スマホ修理店「ピシコ」店長。PC・スマホ修理歴16年。店頭での実際の修理事例をもとに、地域の方に役立つ情報を発信しています。
プロフィール詳細
冷やす前に、電源を切る。
冷やしたあとで動きがおかしい、レンズが曇っている、充電が不安定。そんな症状が出ているなら、内部で腐食が進む前が勝負です。パソコンも同じ理屈で結露します。
まずはご相談から
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