
「Gitとは何か」の解説記事を、まさかコロコロコミックきっかけで書く日が来るとは思っていませんでした。私です。苫小牧でパソコンを直している人間です。なぜ修理屋が小学館の漫画の話をしているのか。順を追って説明させてください。
事の発端は2026年8月8日、ITmedia NEWSに載ったニュースです。小学館の漫画配信サイト「週刊コロコロコミック」で7月30日に公開された読み切り4コマ『まだサ終しないんですか?』が、IT関係者を中心にXで大拡散しているという内容でした。コロコロですよ。私の中では永遠にミニ四駆とビックリマンの雑誌です。そのコロコロの系列サイトに、ソシャゲ運営の修羅場を描いた漫画が載り、しかもバージョン管理ツールの画面が出てくる。世界線がバグったのかと思いました。
作品は、新社会人・侘石ダイヤさんがスマホゲーム運営会社に入社するところから始まります。学生時代から大好きだったゲームの運営チームに配属されて、さあ夢の社会人生活……と思ったら、2ページ目でプロデューサーが失踪します。2ページ目で。導入の速度制限を完全に無視しています。本編は公式サイトで無料公開中なので、ここから先はぜひご自身の目でどうぞ。
ひとつ丁寧に書いておくと、作中で「Git」というツール名が明言されているかは、報道からは断定できません。ITmediaの記事本文では「バージョン管理ツールの履歴を見て不具合の犯人探しをする描写」と表現されていて、「Gitツリー」という言い回しは記事の見出しと、読者の反応として引用されたX投稿に登場します。なので本記事でも「Gitとおぼしき何か」というスタンスで進めます。とはいえ、話題の中心がバージョン管理であることは間違いありません。
店長より
ここからは正確さ最優先で書きます。まず定義から。
ゲームのセーブデータに例えるのが一番早いです。ただし普通のセーブと違う点が3つあります。第一に、過去のセーブポイントが上書きされず全部残ること。第二に、各セーブに「誰が・いつ・何のために保存したか」というメモが付くこと。第三に、複数人がそれぞれ別の場所で進めたデータを、あとで1つに合流させられること。この3つが揃っているので、大人数でひとつのソフトを作る現場が成立します。
使い方の基本サイクルは、次の3ステップだけです。
この履歴が枝分かれしながら積み重なっていく様子を図で表示したものが、いわゆる「ツリー」です。話題になった「Gitツリー」という言葉は、この履歴の一覧画面のことを指していると考えられます。
漫画で描かれたのは、ガチャに不具合が出て、履歴をさかのぼって原因を探す場面です。スマホゲームでは、ガチャの排出内容や確率といった設定を「マスターデータ」と呼ばれるデータで管理するのが一般的とされています。ここに誤った変更が入ると、ゲーム側のプログラムは正常でも、ガチャの挙動だけが壊れます。そこで履歴の出番です。「どの変更が入った直後から挙動が変わったか」を特定できれば、原因の変更と、それを入れた人がわかる。犯人は履歴の中にいる。これがバージョン管理の世界の鉄則です。
ちなみにGitには、ファイルの各行を「最後に変更した人」を一覧表示するコマンドが実在します。名前は「blame」。直訳すると「責める」です。身も蓋もない。もちろん本来の目的は責任追及ではなく、その行が書かれた経緯を調べて原因を理解することです。ということになっています。運用は各社の良心に委ねられています。
と、ここまで訳知り顔で解説しましたが、白状すると私はソシャゲ運営の経験がありません。苫小牧でパソコンを直している人間です。ただ、「記憶ではなく履歴を見れば、原因は特定できる」という考え方だけは、修理の現場と完全に地続きです。Windowsの更新履歴、イベントログ、インストール履歴。私たちが毎日睨んでいるのも、結局のところ履歴なんです。
店長より
「面白い話だけど、Gitなんて自分には関係ない」と思われたかもしれません。半分正解です。Gitそのものを一般の方が使う必要はありません。でも「変更の履歴を残しておけば、いつでも戻れる」という思想は、実は普段お使いのパソコンにもう入っています。Microsoft 365のWordやExcelには「バージョン履歴」があり、OneDriveやGoogleドライブには過去の版を復元する機能があり、Windowsには「ファイル履歴」という機能があります。全部、Gitと同じ思想の親戚です。
店頭では「上書き保存してしまって、昨日の状態に戻したい」というご相談が定期的にあります。履歴系の機能が有効になっていたおかげで数分で解決したケースも、何も設定されておらず打つ手が限られたケースも、どちらも見てきました。分かれ目は技術力ではなく、履歴が「残る設定」になっていたかどうか、それだけです。
店長より
最後にもう一度だけ。犯人は履歴の中にいる。ソシャゲ運営の修羅場でも、苫小牧の修理カウンターでも、上書き保存してしまったあなたのWordファイルでも、この鉄則は同じです。コロコロコミックの読み切り1本から、こんな話まで転がってくるとは思いませんでした。連載化は反響次第とのことなので、私はすでに公式ページから応援済みです。結末は、ぜひご自身の目で。














