
次世代メモリ ZAM という名前が、メモリの値上がりのニュースに混ざって流れてくるようになりました。2026 年 9 月 28 日、ソフトバンクの子会社 SAIMEMORY と、半導体パッケージの大手である新光電気工業が、ZAM の研究開発と商用化に向けた基本合意書を結んだと発表しています。「日本発の次世代メモリ」「商用化へ前進」。見出しだけ読むと、来年あたりにはパソコンのメモリが安くなりそうな気がしてきます。
ところが実用化の目標は 2029 年度中です。この記事では、ZAM が何を目指すメモリなのか、いまの HBM と何が違うのか、そして自宅のパソコンのメモリ増設や買い替えにどう関係するのかを、パソコン修理店の目線で整理します。先に言ってしまうと、財布の話としてはだいぶ先の話です。
先に結論:ZAM は、AI の学習・推論を行うデータセンター向けに開発が進む次世代メモリで、プロトタイプは 2027 年度中、実用化は 2029 年度中が目標です。家庭用パソコンに載るかどうかは示されておらず、いまの DDR5・DDR4 メモリの価格にすぐ効くものではありません。
メモリの増設や買い替えは、ZAM を待たずに「いま困っているか」と「いまの相場」で決めるのが現実的です。
次世代メモリ ZAM とは? 9 月 28 日の発表で決まったこと
まず名前から。ZAM は「Z-Angle Memory」の略で、メモリを縦(Z 方向)に積み上げる構造から来ています。Z の角度のメモリ。字面だけだと必殺技の名前のようですが、中身はかなり地味で真面目な、積み方と配線の話です。
用語:ZAM とは、SAIMEMORY がインテルなどと研究開発を進める次世代メモリの技術で、メモリを縦方向に積み上げる「垂直ビルド構造」と、配線の代わりに磁界を使って信号をやり取りする「磁界結合無線通信 I/O」を組み合わせたものです。高い容量、広い帯域(一度に運べるデータの量)、低い消費電力の両立を狙っています。
SAIMEMORY はソフトバンクの子会社。2 月にはインテルとも組んでいる
SAIMEMORY は 2024 年 12 月に設立された、ソフトバンクの 100% 子会社です。2026 年 2 月には、インテルと ZAM の実用化に向けた協業契約を結んだと発表しています。インテルは、米国エネルギー省が支援するメモリ技術のプログラムで培った基盤技術を持ち込む役回りです。4 月には、この取り組みが NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発の助成事業に採択され、理化学研究所も共同研究先に入りました。
新光電気工業が受け持つのは基板と高密度実装
今回の相手の新光電気工業は、半導体を載せる「パッケージ基板」の設計・製造と、部品を小さな面積にぎっしり詰める高密度実装の技術を持つ会社です。ZAM は設計図ができても、実際に積んで、つないで、量産できなければ製品になりません。その「作れる形にする」部分を担う、という組み合わせです。
SAIMEMORY と新光電気工業は 9 月 28 日、ZAM の研究開発と商用化に向けた基本合意書を締結した。SAIMEMORY が次世代メモリのアーキテクチャ開発を主導し、新光電気工業は半導体パッケージ基板の設計・製造技術と高密度実装技術を生かして、実装・製造技術の確立に取り組む。対象は AI の学習・推論や HPC(高性能計算)向け。
出典:マイナビニュース TECH+「日本発の次世代メモリ『ZAM』が商用化へ前進、SAIMEMORYと新光電気工業が協業」
ここで押さえておきたいのは、今回結ばれたのが「基本合意書」だという点です。製品の発売日が決まったわけでも、工場が動き出したわけでもありません。「一緒に作れる形を探しましょう」と握手した段階です。大事な一歩ではありますが、店頭の棚に並ぶまでの距離は、まだかなりあります。
次世代メモリ ZAM は HBM と何が違う?「積むほど熱がこもる」問題
ZAM の話は、HBM という今の AI 向けメモリを知っていると一気に分かりやすくなります。家庭のパソコンには載っていないので、名前だけ聞いたことがある方も多いと思います。
用語:HBM とは、High Bandwidth Memory(広帯域メモリ)の略で、DRAM のチップを何枚も縦に積み重ね、GPU などの計算チップのすぐ横に置くことで、一度に大量のデータを運べるようにしたメモリです。AI の計算に使う高性能な GPU に搭載されています。
積めば積むほど容量も速度も稼げる。ならどんどん積めばいい、と思うのですが、ここに壁があります。熱です。
HBM は複数の DRAM ダイを積層する構造で、積層数が増えるほど中間の層を中心に発生する熱を外へ逃がしにくくなり、消費電力や性能、積層数の拡大を制約する可能性がある。ZAM は磁界結合無線通信 I/O を採用し、物理的な配線を使わずにメモリとホスト側のチップを接続することで、放熱性能を高めることを狙う。
出典:マイナビニュース TECH+
ミルフィーユを想像してください。生地を重ねるほど豪華になりますが、真ん中の層まで熱を通すのも、真ん中の熱を逃がすのも難しくなる。HBM が抱えているのはこの「真ん中が熱い」問題で、ZAM は積み方と信号のやり取りを変えることで、そこを越えようとしています。
| 項目 | HBM | ZAM(目標) |
|---|---|---|
| 構造 | DRAM を縦に積層 | 縦に積み上げる垂直ビルド構造 |
| 層のつなぎ方 | 物理的な配線 | 磁界結合による無線通信 |
| 課題・狙い | 積むほど中間層の熱が逃げにくい | 放熱性を高め、容量・帯域・省電力を両立 |
| 現状 | AI 向け GPU で使われている | 研究開発中(試作は 2027 年度予定) |
表の右の列は、あくまで「目標」です。具体的な容量や速度、消費電力の数字は、今回の発表では示されていません。数字が出てこない段階の技術を、今の製品と同じ土俵で比べるのは早い、ということは覚えておいてください。

ZAM はいつ使える? プロトタイプは 2027 年度、実用化は 2029 年度
ここまでの発表を、時系列に並べます。日付と予定は、SAIMEMORY・ソフトバンクの発表と報道に書かれているものだけです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024 年 12 月 | SAIMEMORY 設立(ソフトバンクの 100% 子会社) |
| 2026 年 2 月 3 日 | インテルとの協業を発表 |
| 2026 年 4 月 22 日 | NEDO の助成事業に採択(理化学研究所も参画) |
| 2026 年 9 月 28 日 | 新光電気工業との基本合意書の締結を発表 |
| 2027 年度中 | プロトタイプの製作(予定) |
| 2029 年度中 | 実用化(目標) |
SAIMEMORY とインテルは、大規模な AI モデルの学習・推論を行うデータセンターなどでの大容量・広帯域なデータ処理と、消費電力の削減に向けて次世代メモリの研究開発を共同で進める。2027 年度中にプロトタイプを製作し、2029 年度中の実用化を目指す。
出典:ソフトバンク「ソフトバンク子会社のSAIMEMORYとインテル、次世代メモリー技術の実用化に向けて協業」
2029 年度中ということは、遅ければ 2030 年の春です。今日から数えて 3 年半ほど。いま小学 3 年生のお子さんが中学生になっています。しかもそれは「実用化」の目標で、家庭のパソコンの話ではありません。
メモ:日本の会社の「年度」は、ふつう 4 月から翌年 3 月までを指します。「2029 年度中」は 2030 年 3 月までを含む表現です。また「実用化」は、研究段階を抜けて使える状態にすることを指し、一般のお店で部品として買えるようになる時期とは別の話です。
そもそも、なぜ今こんなにメモリが高いのか。AI 向けの需要がどう家庭用のメモリに響いているのかは、以前の記事で詳しく書きました。
家庭のパソコンのメモリ価格にはすぐ効かない。いま増設する人の判断材料
ここがいちばん知りたいところだと思います。結論は、ZAM のニュースで家庭用の DDR5・DDR4 メモリがすぐ安くなることはありません。理由は 3 つあります。
- ZAM の主な対象は、AI の学習・推論を行うデータセンターや HPC です。家庭用パソコンに載るかどうかは、発表では示されていません。
- まだ研究開発の段階で、プロトタイプは 2027 年度中の予定です。製品として出回っていないものは、今の相場に影響しようがありません。
- 容量・速度・価格の数字が、まだ何も発表されていません。どのくらい作れて、いくらになるのかが分からない段階です。
それでも、長い目で見れば無関係とは言い切れない、と私は考えています。いまの値上がりの背景には、AI 向けのメモリが作る側の力を強く引っ張っている事情があります。AI 向けの新しい選択肢が増えれば、その綱引きの形が変わる可能性はある。……と、ここまで考えたところでブレーキをかけます。2029 年の世界の需給を、2026 年の修理屋が当てられるはずがありません。ここから先は経済の占いで、この記事で扱う範囲を超えています。
ここ、見落としがちです:「新しいメモリが出るなら、それまで待とう」と増設や買い替えを先延ばしにすると、そのあいだの動作の遅さや作業の止まりを、ずっと抱えたままになります。ZAM は家庭用の製品として出るかどうかも決まっていないので、待つ理由にはなりません。待つなら、待つ期間を自分で決めておくほうが損をしにくいです。
私はこれを「未来のメモリ待ち」と呼んでいます。新しい規格や技術のニュースが出るたびに、今の買い物を止めてしまう状態です。技術のニュースはいつでも「次」を見せてくれるので、待とうと思えば永遠に待てます。
増設するか迷っているなら、ZAM のことはいったん忘れて、帰ったらこれだけ確かめてください。
- タスクマネージャーの「パフォーマンス」でメモリの使用率を見る。普段の作業で常に 8〜9 割を超えているなら、増設の効き目が出やすい
- 自分のパソコンのメモリが DDR4 か DDR5 かを確かめる。規格が違うメモリは挿さらない
- 空きスロットがあるか、ノートパソコンならメモリが基板に直付けになっていないかを確かめる
- 遅さの原因がメモリではなく、ストレージ(HDD)の古さや常駐ソフトの多さではないかも見ておく
- 買うなら「今の使い方に足りる容量」だけにする。値上がりの時期に、将来のぶんまで積み増す必要はない

値上がりの中で「あのとき買っておけば」と思う瞬間は、誰にでもあります。私にもあります。その分かれ道の話は、こちらの記事に残しています。
自分で中を開けるのが不安な方、DDR4 か DDR5 かの見分けがつかない方は、パソコンをご来店か出張でお預かりして、今のメモリの状態と増設できるかどうかを一緒に確かめることもできます。

よくある質問
ZAMは家庭用パソコンに載りますか?
現時点では示されていません。今回の発表は、大規模な AI の学習・推論のように大量のデータを高速に扱うデータセンターや HPC 向けを想定したものです。載る時期があるとしても、実用化目標の 2029 年度よりさらに先になります。
ZAMが出ればパソコンのメモリ価格は下がりますか?
現時点では分かりません。ZAM は研究開発の段階で、プロトタイプは 2027 年度中の予定、容量や価格の数字もまだ発表されていません。今のメモリ価格に直接効くとは言えないので、増設や買い替えは今の相場と必要性で判断するのが現実的です。
ZAMとHBMは何が違うのですか?
つなぎ方と熱への対処が違います。HBM は DRAM を積み重ねて配線でつなぐ構造で、積む数が増えるほど中間の層に熱がこもりやすいという課題があります。ZAM はメモリを縦に積みつつ、配線の代わりに磁界結合の無線通信でつなぐことで、放熱性の向上などを狙うとされています。
まとめ
次世代メモリ ZAM は、SAIMEMORY がインテルや新光電気工業と組んで開発を進める、AI データセンター向けの新しいメモリです。メモリを縦に積み、配線の代わりに磁界でつなぐことで、HBM が抱える「積むほど熱がこもる」問題を越えようとしています。プロトタイプは 2027 年度中、実用化は 2029 年度中が目標です。
日本の会社が関わる新しいメモリの話として、長い目で追いかける価値のあるニュースです。ただ、家庭のパソコンのメモリ価格にすぐ効く話ではありません。「未来のメモリ待ち」で今の不便を抱え込まず、増設や買い替えは今日の自分のパソコンの状態で決めてください。迷ったら、パソコンを持ってご来店いただければ一緒に確かめます。










