
お店をやっていると、電話の第一声でだいたい用件がわかるようになります。「あの、パソコンがですね……」と来たら起動トラブル。「変な画面が出て……」なら警告詐欺。そして「パスワードを忘れちゃって……」——これが今日の主役です。
この相談、ほぼ必ず同じ展開になります。私が「そのパソコン、Microsoftアカウントですか? ローカルアカウントですか?」と聞く。すると電話の向こうで、数秒の沈黙。「……なんですか、それ?」
責めているのではありません。むしろこれが普通です。自分のパソコンなのに、どんな名義で鍵がかかっているのか、持ち主が知らない。私はこういう状態のPCを「名義不明PC」と呼んでいます。日本中の家庭に、名義不明PCが静かに眠っています。そして名義がわからないまま手当たり次第に試すから、解決がどんどん遠のくんです。
見分け方は拍子抜けするほど簡単です。電源を入れて、サインイン画面をよく見る。名前の下にメールアドレスが表示されていればMicrosoftアカウント。名前だけならローカルアカウントです。道具も知識もいりません。必要なのは、焦る気持ちを3秒だけ抑えることだけ。
なぜこの見分けが最優先なのか。両者では、鍵の情報が保管されている「場所」がまったく違うからです。

おめでとうございます。あなたのケースは、ほとんどが自力で解決できます。開かないPCは一旦置いておいて、スマホか、家族のPCを用意してください。手順はこうです。
4桁や6桁の数字で入る、あれがPINです。PINとパスワードは別物で、PINはそのPC専用の「勝手口の鍵」。Microsoftアカウントの人なら、サインイン画面のPIN入力欄の下にある「PINを忘れた場合」からアカウントのパスワードで本人確認をして、その場で作り直せます。
ここからは少し表情を引き締めて書きます。ローカルアカウントの回復手段は、基本的に次の3つ。どれも「事前に用意してあったかどうか」がすべてです。
サインイン画面でパスワードを間違えると「パスワードのリセット」というリンクが出ることがあります。押すと、アカウント作成時に設定した質問(最初のペットの名前、など)が表示され、全部正解すれば新しいパスワードを作れます。「設定した記憶がない」という人も、案外セットアップ時に流れで登録しているものなので、まずは試す価値ありです。
昔、USBメモリで「パスワードリセットディスク」を作った覚えがある人は、それを挿してサインイン画面の案内に従えば再設定できます。作った人はえらい。過去の自分に感謝してください。
家族共用のPCなどで、別のユーザーアカウント(管理者権限つき)でサインインできるなら、そちらからあなたのアカウントのパスワードを変更できます。「お父さんのアカウントなら入れる」が、ここで初めて役に立ちます。
問題は、この3つがどれもない場合です。公式の案内は最終的に「再セットアップ(初期化)」に行き着きます。そう、データを消して工場出荷状態に戻す道です。ここで一度、立ち止まってほしいんです。
ここで少しだけ、深い話をさせてください。最近の相談で増えているのが、パスワード問題のさらに奥にいる伏兵、BitLockerです。
暗号化というのは面白い技術で、泥棒に対して堅いのと同じ強度で、鍵を失くした持ち主に対しても堅い。誰にとっても平等に開かない、それが暗号の誠実さであり、恐ろしさでもあります。だからこそ設計者は「回復キー」という最後の合鍵を必ず用意していて、その保管責任だけは人間側に……と、この話は膨らみすぎるのでここでブレーキを踏みます。要点は一つだけです。


「名義不明PC」という言葉で始めたこの記事も、そろそろ着地です。パスワード忘れは事故というより日常で、それを前提にWindowsには回復の道が何本も用意されています。ただしその道は、名義——アカウントの種類——によってまったく違う場所に伸びている。だから最初の3秒でサインイン画面を見る。それだけで、あなたのPCはもう名義不明PCではありません。
困ってから名義を調べるのではなく、困る前に名義を知っておく。今日それができた時点で、この記事は元が取れています。伝えたいことは書きました。








