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ルーターの脆弱性を狙うCling|古い機器で確かめる3点

ルーターの脆弱性を狙うCling|古い機器で確かめる3点

ルーターの脆弱性を狙う新しいボットネット「Cling(クリング)」が、2026 年 9 月から 10 月にかけて相次いで報告されました。入口にされているのは、2021 年に見つかった Realtek(リアルテック)製の部品の弱点、CVE-2021-35394 です。5 年前に直し方が出ている弱点が、2026 年になってもまだ通用している。つまり、何年も更新されないまま動いている古いルーターや録画機ほど狙われやすいということです。

Wi-Fi ルーターも防犯カメラの録画機も、一度つないだら棚の上で何年も黙って働きます。私はこれを「忘れられた箱問題」と呼んでいます。壊れていないので誰も見ない。見ないので更新されない。更新されないので、5 年前の弱点がそのまま残る。この記事では、ニュースの中身をかみ砕いたうえで、家庭や小さなお店で今日確かめたいことを順番に書きます。

先に結論:狙われているのは、更新が止まった古いルーター・Wi-Fi 中継器・防犯カメラの録画機などです。今日できるのは 3 つ。管理画面でファームウェアを確かめて更新する、管理用のパスワードを初期のままにしない・外からの管理を切る、メーカーの更新が終わった機種は買い替えを考える。

報告されている目的は、乗っ取った機器を攻撃や通信の中継に使うことです。パソコンのデータを抜くとは書かれていませんが、自分の回線が他人への攻撃に使われるのは避けたいところです。

ルーターの脆弱性を狙うボットネット「Cling」とは。2026 年秋に何が起きているのか

最初に Cling を報告したのは、産業機器や IoT のセキュリティを手がける Nozomi Networks です。続いて 2026 年 10 月 5 日、セキュリティ企業 Fortinet の調査部門 FortiGuard Labs が詳しい分析を出し、「ClingSTUN」という名前で呼んでいます。報道によると、入口の脆弱性を突く試みは 2026 年 9 月 5 日ごろから観測されています。

用語:ボットネットとは、乗っ取ったたくさんの機器を、攻撃者が遠くから一斉に操れるようにした集まりのことです。1 台ずつは小さな力でも、何万台も束ねると、特定のサーバーに通信を集中させて止める攻撃(DDoS 攻撃)などに使えます。

入口は 2021 年に見つかった Realtek Jungle SDK の脆弱性 CVE-2021-35394

Realtek は、ネットワーク機器の心臓部にあたるチップを作っている台湾のメーカーです。チップと一緒に「Jungle SDK」という開発用の部品一式を機器メーカーに渡していて、ルーターなどのメーカーはそれを土台に自社製品を作ります。この SDK の中の部品に弱点があったのが CVE-2021-35394 です。

項目内容
識別番号CVE-2021-35394
深刻度CVSS 9.8(最大 10.0)
弱点のある部品Realtek Jungle SDK 2.x〜3.4.14B の「MP Daemon」「UDPServer」
できてしまうことパスワードなしで、外から機器に命令を実行させられる
Realtek の公表2021 年 8 月 15 日
悪用確認(米 CISA)2021 年 12 月 10 日
CVE-2021-35394 の要点(BleepingComputer・FortiGuard Labs の資料から)

この弱点は新顔ではありません。2023 年 1 月の報道では、2021 年 8 月から 2022 年 12 月までに、この弱点を突こうとする通信が 1 億 3,400 万回観測されたとされています。そのころ使っていたのは Mirai・Gafgyt・Mozi などの名の知れたボットネットでした。同じ鍵穴に、5 年間ずっと新しい泥棒が来ているわけです。

Realtek Jungle SDK の脆弱性 CVE-2021-35394(CVSS 9.8)を突く試みが 2026 年 9 月 5 日ごろから始まり、Cling と呼ばれる新しいボットネットが配られている。Nozomi Networks が最初に報告し、FortiGuard Labs が 10 月 5 日に分析を更新して ClingSTUN と名付けた。

出典:The Hacker News「Realtek Jungle SDK Exploit Attempts Deliver Cling Botnet With STUN-Based C2」

STUN(通話用の公開サーバー)を悪用して身を隠す仕組み

Cling が新しいのは、指示の受け取り方です。STUN は、ビデオ通話やネット電話のときに「自分が外からどう見えているか」を確かめるための、ごく普通の仕組みです。家のネットワークでも日常的に使われています。

報告によると、Cling は機器の中に書き込まれた 13 か所の STUN サーバーへ、およそ 5 秒ごとに問い合わせを送ります。そして、返ってくる通信の中の識別番号の部分に、攻撃者の命令を紛れ込ませて受け取ります。Nozomi Networks は、見張る側から見ると STUN サーバーとの何でもないやり取りにしか見えない、と説明しています。通話アプリの通信に変装している、と思ってもらえれば十分です。

店長
店長
仕組みは凝っていますが、家庭でやることは変わりません。入口の弱点をふさげば、変装の上手い下手は関係なくなります。

ルーターの脆弱性はなぜ 5 年も残る? 狙われる機器と見分けにくさ

Cling は CVE-2021-35394 だけでなく、ほかの機器の弱点もまとめて持ち歩いています。報道では、本体に組み込まれた 7 件の弱点に加え、Fortinet が D-Link・Tenda・TP-Link などの機器を狙う 18 件の侵入経路を確認したとされています。名前が挙がっている機器の種類は、おおむね次のとおりです。

  • Wi-Fi ルーター(D-Link・Tenda・TP-Link・Linksys・LB-LINK など)
  • 防犯カメラの録画機(DVR。MVPower・TBK・KGUARD など)
  • Realtek のチップを使った機器全般(ルーター・Wi-Fi 中継器・ネットワークカメラなど)

乗っ取った機器でできることとして報告されているのは、ほかの機器を探して広がること、通信の中継(プロキシ)、そして DDoS 攻撃です。攻撃先として韓国のプロバイダーや米国の大学、Minecraft のサーバーが挙がっています。

CVE-2021-35394 の影響を受けるのは少なくとも 65 のメーカーで、D-Link・LG・Belkin・Zyxel・Asus・Netgear などが含まれる。機器の種類は、家庭用のゲートウェイ、ルーター、Wi-Fi 中継器、IP カメラ、照明の制御機、ネットにつながるおもちゃまで幅広い。

出典:FortiGuard Labs「Realtek SDK Attack」

「中身に Realtek の部品」は自分では見分けにくい

やっかいなのは、箱にも管理画面にも「Realtek の SDK を使っています」とは書いていないことです。外側はどこかのメーカーのロゴでも、中の土台は Realtek、ということが普通にあります。65 社という数字は、つまり「うちの機器はメーカーが違うから関係ない」と言い切れないということです。

そして 5 年も残る理由は、ここまで読めば見えてきます。チップの会社は 2021 年に直した。でも、その直しを製品に入れるのは機器メーカーの仕事で、さらにそれを家の機器に入れるのは使っている人の仕事です。安い機種や古い機種はメーカーが更新を出さないこともあるし、出ても誰も入れない。部品の会社、機器のメーカー、使う人。3 段のどこかで止まれば、弱点は家の中に残り続けます。……と、業界の構造まで語り始めると止まらないので、このへんでブレーキをかけます。家でできるのは、3 段目をちゃんとやることだけです。

ここ、見落としがちです:防犯カメラの録画機は、ルーターより更新が忘れられがちです。スマホで外から映像を見られるようにした録画機は、それだけネットから見える場所にいます。設置した業者に「ファームウェアの更新はどうなっているか」を聞いておくと安心です。

TP-Link の機器については、以前にもファームウェアの更新を呼びかける記事を書いています。手順の考え方は同じです。

wi-fi

乗っ取られると家では何が困るのか

ルーターが乗っ取られても、たいていの場合ネットは普通に使えます。ここが怖いところで、気づくきっかけがほとんどありません。報告されている Cling の働きから考えると、家庭やお店で困るのは次のようなことです。

Cling の働き家で起きうること
DDoS 攻撃自分の回線が他人のサーバーへの攻撃に使われる
通信の中継見知らぬ人の通信が自分の回線を通る
ほかの機器を探す同じ弱点を持つ機器への入口にされる
常に通信する回線が遅く感じることがある
報告されている働きと、家庭への影響の目安

今回の報告には、家の中のパソコンやスマホのデータを盗むという話は出てきません。ただ、ルーターは家の通信がすべて通る関所です。関所の鍵を他人が持っている状態は、今日の目的が何であれ気持ちのいいものではありません。

メモ:乗っ取りが疑われるときの対処として、ファームウェアを更新したうえで初期化し、管理用のパスワードを強いものに変えることが案内されています。初期化だけ、更新だけでは片手落ちです。初期化の前には、下の注意も読んでください。

店長
店長
「ネットが遅い」の原因がルーターの乗っ取りだった、とすぐ結びつけるのは早いです。ただ、10 年近く同じルーターなら、遅さとは関係なく一度見直す時期だと考えています。

今日できる確認と対策 3 点

ここからが本題です。使っている機器のメーカーと型番を、本体の底や裏のシールで控えてから始めてください。型番が分かれば、メーカーのサポートページで「脆弱性のお知らせ」と「最新のファームウェア」を確かめられます。

注意:ファームウェアの更新中は、絶対に電源を抜かないでください。書き換えの途中で止まると、ルーターが起動しなくなることがあります。また、困ったからといって初期化(リセット)はしないでください。プロバイダーの接続 ID やパスワードまで消え、ネットにつながらなくなります。初期化するなら、接続情報の書類が手元にあることを先に確かめてください。

  1. ルーター本体のシールに書かれた管理画面のアドレスを、パソコンやスマホのブラウザーに入れて開き、管理用のパスワードでログインする。
  2. 「ファームウェア」「システム」などの項目で今のバージョンを確かめ、メーカーのサポートページの最新版と比べる。古ければ更新し、自動更新の設定があれば有効にする。
  3. 管理用のパスワードが買ったときのまま(admin など)なら、自分で決めたものに変える。
  4. 「リモート管理」「WAN 側からのアクセス」などの外から管理する設定が有効になっていたら、使っていない限り無効にする。
  5. メーカーのサイトで、その型番の更新が何年も出ていない、またはサポート終了と書かれていたら、買い替えを考える。

手順は 5 つに分けましたが、やっていることは「更新する」「鍵を変える・外の扉を閉める」「更新が来ないなら替える」の 3 点です。防犯カメラの録画機も考え方は同じで、型番を控えてメーカーの更新を確かめます。

更新が止まった古い機種は買い替えの検討を

サポートが終わった機種には、これから見つかる弱点の直しも届きません。今回の CVE-2021-35394 のように、5 年たっても狙われ続ける例を見ると、更新が来ない機器は「動いているから使う」ではなく「ふさげないから替える」と考えたほうがいいと思います。買い替えるときは、今の Wi-Fi の名前とパスワード、プロバイダーの接続情報を控えておくと、つなぎ直しが楽になります。

設定の移し替えは、慣れていないと半日つぶれる作業です。当店の Google のクチコミ(139 件・平均 4.9、2026 年 10 月時点)にも、引っ越しのときのネットや Wi-Fi の設定を手伝ってもらって助かった、という声をいただいています。自分で判断がつかないときは、機器の型番を控えて、ご来店か出張でご相談ください。

店長
店長
管理画面のパスワードが分からない、という方は多いです。分からないまま何年も使えてしまうのが、ルーターという機械なんですよね。

よくある質問

うちのルーターが Realtek の部品を使っているかどうか、自分で分かりますか?

製品の箱や管理画面には書かれていないことが多く、使っている人が見分けるのは難しいです。少なくとも 65 のメーカーの機器が影響を受けるとされています。メーカーのサポートページで、お使いの型番に脆弱性のお知らせやファームウェアの更新が出ていないかを確かめるのが確実です。

ルーターが乗っ取られると、パソコンやスマホのデータも盗まれますか?

今回の Cling の報告では、目的は乗っ取った機器を使った DDoS 攻撃や通信の中継、ほかの機器への感染の広がりとされており、家の中のパソコンのデータを抜くとは書かれていません。ただし、自分の回線が他人への攻撃に使われたり、知らない人の通信が通ったりするので、ファームウェアの更新などの対策はしておくべきです。

メーカーの更新がもう出ていない古いルーターはどうすればいいですか?

サポートが終わって更新が来ない機種は、弱点がふさがらないままになるので、買い替えるのが現実的です。設定を移すときは、今の Wi-Fi の名前とパスワード、プロバイダーの接続情報を控えておくとスムーズです。

まとめ

2026 年秋に報告されたボットネット「Cling(ClingSTUN)」は、2021 年に公表された Realtek Jungle SDK の脆弱性 CVE-2021-35394 などを入口に、古いルーターや防犯カメラの録画機を乗っ取り、DDoS 攻撃や通信の中継に使います。通話用の STUN の通信に紛れて命令を受け取るので、外から気づきにくいのが特徴です。

家でできることは、ファームウェアを更新する、管理用のパスワードと外からの管理を見直す、更新が来ない機種は買い替える、の 3 点です。棚の上の「忘れられた箱」に、年に一度だけ目を向けてあげてください。どこを見ればいいか分からないときは、型番を控えて気軽に相談してください。

この記事を書いた人

ホンダ ヒデユキ

ホンダ ヒデユキ

北海道苫小牧市でパソコン修理店「ピシコ」を運営しています。 パソコン修理・データ復旧・自作PCサポートなど、現場での対応を続けながら、毎日テックブログを更新しています。 近年は、企業向けのAI導入や業務自動化の支援にも力を入れており、予約・見積・請求など、日々の業務を効率化する仕組みを実際に構築・運用しています。 「難しいことを、できるだけわかりやすく」を大切に、修理の現場やAI活用で得た知識を発信しています。