
8月27日の夜、苫小牧では雷を伴う荒天のさなかに停電が相次ぎました。その翌朝から今日まで、「パソコンの電源が入らない」というご相談が当店に途切れず届いています。数で言うと、店頭の体感で例年の10倍以上です。
作業台の上はBTOパソコンで埋まり、店内はちょっとした野戦病院と化しています。「電源ユニットだけ負傷している子」と「マザーボードまで撃たれている子」を朝から仕分ける日々。私はパソコン修理店の店長のはずなのですが、ここ数日の職業は衛生兵です。
この記事では、あの夜に何が起きたのか、なぜ「つけっぱなしのパソコン」ばかり壊れたのか、そして店で実際にどう調べているのかを書きます。途中で「5ボルトの生存報告」という聞き慣れない言葉が出てきますが、これが今回の主役です。
あの晩、市内では雷を伴う荒天と同じ時間帯に、短い停電が立て続けに起きていました。感覚の話ではなく、北海道電力ネットワークの公開記録に残っています。
ポイントは「切れて、戻って、また切れた」ことです。停電が1回きりなら、パソコンはただ落ちるだけで済むことも多い。ところが復旧のたびに電気が一斉に流れ込むので、電源まわりはそのたびに衝撃を受けます。一晩で2回3回と繰り返されると、殴られては起こされ、また殴られるようなものです。ちなみに記録を遡ると、8月24日の夜にも美沢で2回の停電が残っていました。この週の苫小牧の電気は、けっこう揺さぶられ続けていたわけです。
店長より
今回の持ち込みには、はっきりした共通点があります。店頭でお話を伺うと、壊れたBTOパソコンの多くが「あの夜、電源を入れたまま誰も触っていなかった」機体なのです。
背景には、ここ数年で一気に広がった使い方があります。外出先のノートパソコンから自宅の高性能BTOへリモート接続して重い作業を任せる。あるいはClaudeやCodexのようなAIに夜通し作業をさせておく。非力なノートしか持ち歩かなくても、家のマシンが働いてくれる。合理的です。合理的なのですが、その運用の前提が「24時間通電」なんですね。つまり雷の夜、いちばん無防備な姿勢で待機していたのが、いちばん高いパソコンだったという話です。
誤解のないように書いておくと、私は「つけっぱなしが悪い」と言いたいのではありません。リモート運用もAIの夜間稼働も、いまの道具の使い方としてまっとうです。電力系統の仕組みや配電の話までここで語り始めると、たぶんあと5,000字くらい必要になるので自重しますが、要するに問題は運用そのものではなく、その運用に「雷の日の装備」がまだ追いついていないこと。守り方は後半のセクションで書きます。
ご相談で非常に多いのがこれです。「マザーボードのランプはついてるんです」「マウスは光ってるんです」「だから電源は生きてると思うんです」。お気持ちはよく分かります。光っていたら生きていると思いますよね。私も金曜の夜の自分の目が光っていたら、まだ働けると誤解します。
ここは正確に書きます。パソコンの電源ユニットは、1種類の電気を流しているのではありません。12ボルト・5ボルト・3.3ボルトといった複数の電圧を同時に供給しており、それぞれ役割が違います。故障のしかたによっては、この一部の系統だけが生き残ることがあります。たとえば5ボルト系だけが生きていれば、ランプやUSB機器は光るのに、本体を起動させるための系統が死んでいて立ち上がらない、という中途半端な状態になるのです。
店内ではこの状態を「5ボルトの生存報告」と呼んでいます。パソコン本人は光の点滅で「生きてます、大丈夫です」と報告してくる。でも実際に検査してみると、報告してくる元気しか残っていない。生存報告と健康診断書は、別の書類です。
店長より
それでは、野戦病院の診察室で実際に何をしているのかをお見せします。ここも茶化さずに書きます。
費用について隠さず書いておくと、調査だけでもこの料金はかかります。「開けて見るだけならタダでは」と思われるかもしれませんが、上の2段階チェックは検証機材と測定の手間を使う立派な診察です。そして診察したうえで「修理する価値があるか、買い替えたほうが得か」まで含めてご提案します。直すことだけが正解とは限らない、というのが16年やってきた者の実感です。
先に書いたとおり、「つけっぱなしをやめましょう」とは言いません。リモートもAIの夜間稼働も、続けていい。ただし装備は変えましょう。いちばん確実なのは、雷注意報が出ている日は作業を切り上げてシャットダウンし、電源プラグをコンセントから抜いておくこと。原始的ですが、抜いてあるプラグより強い防御を私は知りません。
どうしても止められない機体には、UPS(無停電電源装置)やサージ保護機能付きの電源タップという選択肢があります。ただしここも正確に書くと、これらは万能ではありません。サージ保護タップが軽減できるのは一定範囲の過電圧までで、ごく近くへの落雷や直撃には耐えられないことがあります。それでも「何もなし」と比べれば守れる場面は確実に増えるので、常時稼働運用とはセットで考えてほしい装備です。
店長より
野戦病院の受付はまだ続いています。この記事で伝えたいことは書きました。あとは願うだけです。次の雷の夜、あなたの部屋で留守番しているパソコンから届くのが、「5ボルトの生存報告」ではありませんように。















