
ピシコの本田です。今日はパソコン修理の話ではなく、私がこの半年やっていたことの経過報告をさせてください。
どの業界でもそうなんですが、ちょっと触っただけで語ると「にわか」って言われるんですよね。AIの世界は特にそれが顕著で、ChatGPTに3回質問しただけで「AI活用してます」と言う人と、本気で業務に組み込んでいる人が、同じ「AI使ってる人」として扱われてしまう。それが嫌で、今年の2月からがっつり触ることにしました。
気づいたら、トータルで約1000時間。営業時間外の私の人生、ほぼ全部です。
1000時間と書くと「盛ってるでしょ」と思われそうなので内訳を書くと、閉店後の夜に3〜4時間、定休日はほぼ丸一日、これを半年。趣味と実益と意地が混ざった結果です。閉店後の店内で、画面に向かって一人で「いや、そうじゃない」「そう、それ!」と喋っている店長がいたら、それは私です。通報しないでください。
で、1000時間かけて何が分かったのか。先に結論を置いておきます。
「雇う」ってどういうことだ、と思いますよね。順番に書きます。まず、私の失敗談からです。成功した話だけ書いてもしょうがないので、時間とお金を溶かした話から先にやります。
最初は、皆さんが想像する通りの入り方でした。AIに触れることで、今までできなかったことができるようになる。プログラミングの専門教育を受けていない私が、AIと組むことで動くソフトウェアを作れてしまう。この体験は衝撃でした。実際、AI関連のお仕事を受注することもできました。「おお、これは新しい収入の柱になるのでは」と一瞬思ったんです。一瞬だけ。
なぜ一瞬で終わったか。「AIで作れる」と「仕事として請け負える」の間に、想像の3倍くらいの距離があったからです。作れることは作れる。でも、納期を約束して、品質を保証して、納品後の面倒まで見る、となった瞬間に、必要なものが一気に増える。そしてその「増えた分」は、AIが埋めてくれる部分ではなく、人間の側の実力が問われる部分でした。
結論として、これをメインのお仕事にすり替えるのは困難である、ということが早々に分かりました。なぜか。理由は大きく3つあります。そしてこの3つ、AIブームの記事がだいたいスルーしている部分です。
いま流行りの「バイブコーディング」、つまりAIに言葉で指示してプログラムを作らせるやり方。あれをやり込んで痛感したのは、一番大事なスキルはプログラミングの知識でも最新ツールの知識でもなく、頭の中のもやもやを言葉に具現化する国語力だったということです。
AIは、指示した通りのものを作ってきます。指示した通りのものを、です。「思っていたのと違うもの」が出てきたとき、悪いのはAIではなく、思っていたことを言葉にできていない私なんですよ。「いい感じの予約システム作って」で本当にいい感じのものが出てくるなら、世界中の開発会社はとっくに廃業しています。
例えば「予約システム」ひとつ取っても、頭の中を全部言葉にするとこうなります。予約枠は何分刻みか。1日に何件まで受けるか。定休日はどう扱うか。当日キャンセルは受けるのか。お客様が入力する項目は何と何か。予約が入ったら私にどう知らせるか。ダブルブッキックしそうなときは誰が止めるか。……最初の頃の私は、この解像度ゼロで「予約システム作って」と打っていました。そして出てきたものを見て「なんか違う」と言っていた。「なんか違う」は、指示ではなく感想です。感想では、人もAIも動かせません。
これ、冷静に考えると、人に仕事を頼むときと完全に同じなんですよね。新人さんに「いい感じにやっといて」と丸投げする上司の下では、誰も育たない。AI時代に必要なスキルとして横文字がいろいろ飛び交っていますが、その正体の8割は、昔から国語と呼ばれてきたものだと思います。
そしてもうひとつ。専門知識がない状態でAIと向き合うと、AIの出してきたものに対して「それは違う」「それでいい」の判断ができないんです。判断ができないから、出てきたものをとりあえず動かして、動かなくて、AIに「動きません」と伝えて、また別のものが出てきて、また動かなくて……という無限ループに入ります。
この半年で一番時間を浪費したのは、間違いなくここです。AIが遅いんじゃない。審査員である私の目が節穴だったので、審査が終わらなかったんです。
よく「AIがあればプログラマーは要らなくなる」と言われますが、半年やった実感としては逆です。AIの出力を一目見て「あ、これ筋が悪い」と言える人の価値が、むしろ上がっています。パソコン修理と同じですね。部品はネットで買えるけれど、「どの部品が悪いか」を見抜く目は買えない。あれと完全に同じ構造です。
これは失敗談というより自白ですが、私は序盤、課金を惜しみました。無料枠や安いプランでなんとかしようとして、性能の低いモデルに難しい仕事をさせて、出来の悪いものを延々と手直しさせていました。当時の私の言い分は「まだ元が取れるか分からないから」。もっともらしいでしょう。でも冷静に考えると、性能の低いAIが3時間かけて失敗した仕事を、性能の高いAIは10分で仕上げてきたりするんです。その差額、月に数千円。私は数千円を守るために、自分の夜を差し出していました。
これも「雇用」で考えると一瞬で答えが出る話でした。時給500円の未経験者と、時給1,500円のベテラン、どちらに大事な仕事を任せますか、という話です。道具だと思っているから「安いほうでいいや」になる。人件費だと思えば、仕事の重さに合わせて人選する。この金銭感覚の切り替えができた日から、私のAI生活は目に見えて回り始めました。
というわけで、「AIそのものをお仕事にする」路線は早々に畳みました。国語力と専門知識という2つの壁は、片手間で越えられるものではなかった。ではこの1000時間は無駄だったのかというと、そうではなくて。ここから発想を変えたところで、話が一気に面白くなります。
じゃあ何のためにAIがあるのか。チャット画面に質問を打ち込んで、答えをコピペする。あの使い方の延長線上には、たぶん何もありません。私がたどり着いたのは、こういう問いでした。
「もし今、もう一人従業員を雇ったら、その人に何を任せる?」
リアルに人を一人雇って仕事を任せたら、私の体の負担はどれだけ楽になるのか。それをまず具体的に想像する。そして、その「任せる仕事」をAIにすり替えていく。つまりAIをツールとして「使う」のではなく、業務の流れの中に従業員として「割り込ませる」わけです。この発想の転換が、私の1000時間の中で一番大きな収穫でした。
「使う」と「割り込ませる」の違いを、もう少しだけ。「使う」は、自分がAIのところへ行くことです。手を止めて、画面を開いて、質問を打つ。便利ですが、行くのを忘れたら何も起きない。一方「割り込ませる」は、業務の流れそのものの中にAIの持ち場を作ることです。予約が入ったら勝手に動く。決まった時間に勝手に集計する。私が思い出さなくても仕事が進む。従業員は、上司が声をかけないと働かない存在ではないはずです。AIも同じで、持ち場を与えて初めて従業員になります。
実際に割り込ませてみて、一番効果があったのは次の3つでした。スケジュール管理、予約の管理、そして見積書・請求書の作成。当店のような一人でお店を回している業態では、この3つが営業時間の外側にべったり張り付いてくる「見えない残業」なんです。
以前の私の見積書作成は、こうでした。お客様との会話を思い出しながらメモを探して、雛形ファイルを開いて、前回の見積もりから使えそうな行をコピーして、品名を打ち替えて、金額を電卓で確かめて、日付を直し忘れて、PDFにして、送る。1件あたり、なんだかんだで小一時間。それが今は、要点を一言伝えれば下書きが立ち上がって、私は最終チェックと修正だけをします。1〜2分です。
スケジュールと予約も同じです。以前は、LINEで届いたご予約希望を見て、手帳とカレンダーアプリを見比べて、空きを確認して、返信を打って、カレンダーに書き込んで、前日に自分でリマインドの連絡をして……という細切れ作業が、1日の中に何度も割り込んできていました。1回1回は数分でも、割り込まれるたびに手が止まり、集中が切れる。修理作業の途中で予約確認のために手を止めるのは、地味に効くんです。今はその流れの大部分が自動で回っていて、私は例外的な相談だけを見ればいい状態になりました。
1時間かかっていた作業が1〜2分で終わる。この数字だけ見ると魔法のようですが、種明かしをすると、魔法ではなく雇用です。仕事の依頼の仕方を覚えて、相手の得意不得意を把握して、チェック体制を作った結果です。新人さんに仕事を教えるのと、やっていることは何も変わりません。
店長より
「AIを雇って割り込ませる」と一言で書きましたが、実際は段階を踏んでいます。私の半年を整理すると、5つのフェーズに分かれていました。これからやってみたい方の地図になると思うので、置いておきます。
店長より
そして最終目標は、この一式をパッケージ化して、販売するなり、譲渡するなり、コンサルティングの形でお渡しできるようにすることです。……と書くと「結局商売の話か」と思われそうですが、理由はもう少しひねくれています。
ここからは、半年AIを「雇って」きた中で考え続けていた、少し重たい話をします。AIエージェント、つまり自律的に仕事をこなすAIとは結局何なのか。私の答えは「人の代わりになるもの」。ただ、その「代わり」が具体的にどの層の代わりなのかを、みんなあまり直視していない気がするんです。
私はこれを勝手に「セルフレジ理論」と呼んでいます。スーパーのレジ周りを思い浮かべてください。あそこには、3つの層があります。
一番上に、セルフレジを「管理できる人」。機械が詰まったら直し、お客様が困っていたら助け、レジ全体の流れを見ている店員さんです。真ん中に、セルフレジそのもの。かつて人間がやっていた精算業務を、黙々とこなす機械。そして、セルフレジには任せない仕事……品出し、清掃、細かな雑務を担う人たちがいます。
これをそのまま、AI時代の仕事の構造に重ねられます。上の層は「AIを使いこなし、管理できる人」。真ん中の層は「AIで全て賄える仕事」。下の層は「AIにやらせるまでもない、人間がやったほうが早い雑務」。先に強調しておきたいのですが、これは上中下の偉さのランク付けではありません。どの仕事も店が回るために必要です。問題は偉さではなく、真ん中の層だけが、これから丸ごとAIにすげ替わっていくという一点です。
私自身の半年が、まさにその実演でした。スケジュール管理、予約管理、見積書と請求書。以前の私なら「事務員さんを一人雇いたい」と思っていた仕事たちが、そっくりAIに置き換わった。つまり私は、この半年で「生まれるはずだった雇用を一つ、自分の手で消した」とも言えるわけです。自分の店のことなので誰にも迷惑はかけていませんが、これが社会全体で同時多発的に起きるとどうなるか。
実際、スーパーのレジは既にこの通りに動いています。10年前、レジには10人の店員さんが並んでいました。今は、セルフレジが10台並んで、それを見守る店員さんが1〜2人。レジ打ちという「中間層」の仕事は機械にすげ替わり、残ったのは「機械を管理する上の層」と「品出しなどの、機械にやらせるまでもない層」。私たちはこの光景をもう何年も見ているのに、「あれが次はオフィスの事務職で起きる」とは、なぜかあまり考えない。レジは機械の話、事務は人間の話、と別物だと思っている。でも構造は完全に同じです。
「中間層の仕事がAIに置き換わるのは難しいと思いますか?」と聞かれたら、技術的には「難しくない」が答えになってしまう。そして「難しくない」という言葉の裏側の意味を口にすると、こうなります。今後、この中間層に新しい雇用は生まれない。私はここに気づいてしまったとき、けっこう真剣に、しばらく手が止まりました。
……この話、雇用論から教育論、地方経済の話まで際限なく膨らんでいくので、このあたりでブレーキをかけておきます。パソコン屋のブログの守備範囲を明らかに越えていくので。ただ、最後にひとつだけ、どうしても書いておきたいことがあります。
セルフレジ理論の怖い使い方は、簡単です。「中間層の仕事はAIで置き換えられる。だから人を減らせばコストが浮く」。経営の数字だけ見れば、そういう計算は成立してしまいます。そして残念ながら、その計算だけで動く会社は、これから確実に出てきます。
でも、私はそれを「AI活用」と呼びたくないんです。人を切って浮いた人件費は、一度きりの節約です。それに対して、AIに事務を任せて、空いた人の手をお客様に向ける仕事や新しい売上を作る仕事に回せたら、それは毎年積み上がる利益になります。単に人を切って人件費を浮かせるのではなく、人がより利益を生む場所に移れる仕組みを考えるのが、これからの経営の仕事だと思っています。
これは大企業だけの話ではなくて、むしろ地方の中小のお店や会社にこそ関係があると思っています。地方は元々、人手が足りません。「人を切る」以前に、雇いたくても人が来ない。だとすれば、地方でのAIの正しい使い道は人減らしではなく、「足りない一人分」をAIに埋めてもらって、今いる人が本来の仕事に集中できるようにすることのはずなんです。同じ技術でも、東京の大企業と地方の店では、正解の使い方が違う。私が半年かけて自分の店で実験してきたのは、後者の答え探しでした。
セルフレジの一番上にいる「管理できる人」は、機械を導入した人ではなく、機械と人の配置を考え直した人です。AI時代の経営者に求められるのも同じで、AIという仕組みを組む側と、今の仕事にしがみつきたい気持ちを抱えた社員さんとを、どうマッチングさせるか。切るのではなく、動かす。そこまで設計して、初めて「AIを雇った」と言えるんだと思います。
店長より
この話を店頭ですると、だいたい同じ質問をいただきます。3つほど、ここでまとめて答えておきます。
長々と書いてきましたが、半年と1000時間の結論は、最初に書いた二語に戻ります。AIは「使う」ものではなく、「雇う」もの。
チャットで質問して答えをもらうのは、面接だけして採用しない状態です。自分の1日の業務を書き出して、「もう一人いたら任せたい仕事」を見つけて、そこにAIを割り込ませる。課金はケチらない(人件費なので)。出てきた仕事は必ずチェックする(新人さんなので)。うまく回り始めたら、任せる範囲を広げる。この繰り返しだけで、1時間の仕事が2分になる世界は、誇張なしに実在します。
明日から何をすればいいか、と聞かれたら、私はいつもこう答えています。まず紙とペンで、今日1日にやった仕事を全部書き出してください。修理、接客、発注、記帳、返信、掃除、全部です。次に、その中から「これ、誰かに任せられたら楽なのに」と思うものに印をつける。その印がついた仕事こそが、AIという新入社員の初仕事の候補です。ツールの選定はその後でいい。求人票を書けない会社に、良い人材が来ないのと同じです。任せたい仕事が言葉になっていないうちは、どんな高性能なAIを契約しても宝の持ち腐れになります。
そしてもし、あなたが誰かを雇う側の人なら、セルフレジ理論の真ん中の層をどうするかを、数字より先に考えてみてほしいのです。AIに仕事を渡すのは簡単になりました。難しいのは、そして価値があるのは、人をどこに動かすかのほうです。私はその設計を考えられる側の人間でありたくて、たぶんこれからもAIに時間を溶かし続けます。1000時間が2000時間になったら、また報告します。
伝えたいことは書きました。あなたの職場のセルフレジは、どこにありますか。















