
AM5 で起動しない。組んだばかりの Ryzen のパソコンに電源を入れたのに、画面は真っ暗のまま。マザーボードの DRAM ランプだけが点きっぱなしで、ファンは回っている。このまま待つべきか、電源ボタンを長押しするべきか。自作や BTO の直後に、いちばん心臓に悪い場面です。
この記事では、その真っ暗な時間を「沈黙タイム」と呼ぶことにします。AM5 の DDR5 メモリは、起動のたびに調整(メモリトレーニング)をしていて、初回や BIOS 更新の直後はこれが長くなります。沈黙タイムの大半は故障ではなく、仕事中の時間です。ただし、待っても終わらない沈黙もある。その見分け方を順番に書きます。
先に結論:組み立て直後の初回起動で DRAM ランプが点いたまま画面が出ないのは、DDR5 のメモリトレーニング中であることが多く、まずは電源を切らずに待つのが先です。MSI の検証では、通常の起動でもロゴが出るまで約 43 秒かかっていました。
何分待ってもランプが消えない、毎回再起動を繰り返す、ランプが VGA など別の場所で止まる場合は、差し込み・配線・BIOS の対応を疑います。確認は必ず電源を切ってから行います。
AM5で起動しない原因の多くは「待ち時間」。DDR5のメモリトレーニングとは
昔のパソコンに慣れている人ほど、AM5 の沈黙タイムに焦ります。電源を入れて数秒でメーカーのロゴが出る、という感覚で待っていると、10 秒、20 秒、30 秒……と真っ暗なまま時間が過ぎる。そこで「壊れた」と判断して電源を切り、また最初からやり直しになる。待てなかった人ほど、永遠に起動しないパソコンを作ってしまうという、なんとも皮肉な構図です。
用語:メモリトレーニングとは、CPU に内蔵されたメモリコントローラー・マザーボード・DDR5 メモリの組み合わせに合わせて、信号のタイミングや電圧を調整する処理のことです。Windows が読み込まれる前、BIOS の段階で行われるため、その間は画面に何も出ません。
DDR5 は速いぶん、信号の扱いがシビアです。だからマザーボードは、メモリを確実に動かせる条件を起動時に探りにいく。この「探りにいく時間」が、DDR4 時代の感覚より長いのです。
MSI は 2023 年 4 月、AM5 向けの BIOS に Memory Context Restore を加え、自社の検証(MAG X670E TOMAHAWK WIFI、Ryzen 7 7800X3D、DDR5-6000 の 32GB)で、起動時間がおよそ 43 秒から半分ほどに短くなったと発表した。あわせて、メモリの設定を変える前に安定性を確かめてから使うよう案内している。
出典:Club386「MSI claims 12 per cent FPS increase with Ryzen 7 7800X3D via new BIOS mode」
ここで大事なのは、43 秒が「壊れていない、ちゃんと組まれたパソコンの普段の起動」の数字だということです。メーカーが自社の検証機で測って、それでも 40 秒を超えている。組んだばかりの初回は、ここからさらに長くなることがあります。

AM5で起動しないとき、待っていい状態と疑う状態の見分け方
多くの AM5 マザーボードには、起動の途中経過をランプで知らせる仕組みがあります。CPU → DRAM → VGA → BOOT の順に確認が進み、引っかかった場所のランプが点いたままになる、という形が一般的です(名前や並びはメーカーで違うので、手元の説明書で確かめてください)。つまり、どのランプで止まっているかが、そのまま手がかりになります。
| 見えている状態 | 考えられること | まずやること |
|---|---|---|
| DRAM が点灯、やがて消えて画面が出る | メモリトレーニングが終わった。正常 | そのまま使う |
| DRAM が長く点灯、何度か再起動する | トレーニングの途中で設定をやり直している | 電源を切らずに待つ |
| DRAM が点いたまま、待っても変わらない | 差し込み不足・相性・BIOS の対応 | 電源を切って挿し直し |
| DRAM が消えて VGA で止まる | メモリは通過。映像の出口かグラボの問題 | モニターの接続先を確認 |
| CPU で止まる | CPU 補助電源・BIOS の対応 | 補助電源と BIOS を確認 |
表の 2 行目がいちばんややこしいところです。トレーニング中のマザーボードは、条件を変えて自分で再起動をかけることがあります。ファンが止まってまた回り出すと「再起動を繰り返している=壊れた」と見えますが、初回に限れば、これも仕事のうちのことがあります。
では何分待てばいいのか。ここは一律の秒数を出せません。マザーボード、BIOS の版、メモリの容量と枚数、EXPO を有効にしているかで変わるからです。私自身は、初回の起動では5 分ほどは手を出さずに待つことにしています。これは仕様ではなく、焦って電源を切るよりは損が少ない、という私の線引きです。
ここ、見落としがちです:メモリトレーニングは初回だけではありません。メモリの追加・交換、CMOS クリア、BIOS 更新、EXPO の有効化、メモリのクロックやタイミングの手動変更のあとも、もう一度やり直しになります。「直そうとして CMOS クリアをしたら、また長く真っ暗になった」は、故障が悪化したのではなく、最初からやり直しているだけのことが多いです。
沈黙タイムが延びる条件は、国内の解説記事でも整理されています。EXPO を有効にすると、JEDEC の定格を超える速度で動かすぶん、調整がより慎重になって時間がかかる、という点も押さえておくと焦りが減ります。
メモリトレーニングがやり直しになるのは、組み立て直後、メモリの増設・交換、CMOS クリア、BIOS 更新、EXPO の有効化、メモリのクロックやタイミングの変更のあと。BIOS 更新では保存されていた結果が消え、次の起動で一からやり直すことがある。
出典:gaming-st.com「AM5ゲーミングPCの起動が遅い原因|DDR5メモリトレーニングとMemory Context Restoreを解説」
ランプが DRAM から VGA に移ったのに画面が出ない、という人は、メモリの話ではなく映像の出口の話かもしれません。BIOS の画面が出ないときに先に疑う場所は、別の記事にまとめています。
待っても映らないときに、電源を切ってから確かめる順番
十分に待っても DRAM ランプが消えない、あるいは別のランプで止まったまま。ここで初めて手を動かします。順番は「外から見て分かるもの」から「中を触るもの」へ。いきなり部品を外し始めないのがコツです。
注意:メモリやケーブルを触る前に、電源を切って電源ユニットのスイッチを切り、コンセントも抜いてください。通電したまま抜き差しすると、メモリやマザーボードを壊すおそれがあります。触る前に金属のケースに手を当てて、体の静電気も逃がしておきます。
- モニターのケーブルが、マザーボード側ではなくグラフィックボード側の端子に挿さっているか確かめる。Ryzen 5 7500F のように内蔵グラフィックの無い CPU では、マザーボード側の端子からは映りません。
- CPU 補助電源(マザーボード上部の 8 ピン)と、グラフィックボードの補助電源が奥まで挿さっているか確かめる。
- メモリを一度抜き、両端のツメが「カチッ」と閉じるまで真上から押し込む。2 枚なら、説明書が指定するスロット(多くは A2・B2)に挿さっているかも見る。
- それでも変わらなければ CMOS クリアをして、もう一度起動する。このあとは再びトレーニングが走るので、また時間がかかる前提で待つ。
- Ryzen 9000 シリーズなど新しい CPU を古い BIOS のマザーボードに載せた場合は、BIOS が CPU に対応しているかをメーカーのサポートページで確かめる。対応していなければ BIOS の更新が必要。
手順 5 の BIOS 更新は、CPU が動かない状態でも USB メモリから BIOS を書き換えられる機能を持つマザーボードがあります。MSI は「Flash BIOS Button」、ASUS は「BIOS FlashBack」など、名前はメーカーで違います。使えるかどうか、どの USB 端子を使うかは、必ずその機種の説明書で確かめてください。
この 5 つは、どれも部品を傷めずに確かめられる項目です。逆に言えば、ここまでやって変わらないなら、部品そのもの・相性・初期不良の領域に入っていきます。

Memory Context Restore と EXPO:起動を速くしたいときの順番
無事に Windows まで起動したら、次に気になるのが「毎回これだけ待たされるのか」という話です。ここで出てくるのが Memory Context Restore。前回のトレーニング結果を覚えておいて、次の起動で使い回す機能です。うまくはまれば沈黙タイムがぐっと縮みます。
ただ、ここで少し深掘りすると、この機能は「調べ直す手間を省く」ものです。前回の結果が今の状態に合っていれば速くて快適。合っていなければ、調べ直さずに合わない条件で動かすことになる。つまり速さと引き換えに、マザーボードの慎重さを一段だけ手放す設定なんですね。……と、ここで止めておきます。家庭で使うぶんには、次の順番を守れば十分です。
- マザーボードの BIOS を、メーカーが公開している最新の安定版にする。
- EXPO を使うなら先に有効にし、何度か再起動とふだんの使い方を試して、落ちたり固まったりしないことを確かめる。
- そのあとで Memory Context Restore を有効にする。
- 有効にしたあと、電源を切っての起動と再起動を何度か繰り返し、画面が出ない・ブルースクリーンが出るなどが無いか確かめる。
メモ:Memory Context Restore は起動を速くする機能で、ゲームのフレームレートなど動作中の速さは変わりません。有効にしてから不安定になった場合は、設定を「無効」に戻せば元に戻ります。BIOS の画面に入れないときは CMOS クリアで初期化できますが、そのあとはまたトレーニングからやり直しです。
ややこしいのは、BIOS を更新するとこの設定や保存された結果がリセットされることがある点です。更新のあとの最初の起動は、また長い沈黙タイムになる。そこで慌てないために、更新したら一度は待つものだと覚えておくと楽になります。
それでも映らないなら、部品の差し替えを続けない
確認の手順をひと通りやっても沈黙が終わらないとき、自作をする人ほど「じゃあメモリを 1 枚にしてみよう」「別のスロットにしてみよう」「グラボを外してみよう」と、差し替えの旅に出がちです。気持ちはよく分かります。私もやります。ただ、抜き差しの回数が増えるほど、新しい原因を自分で作る確率も上がるのがこの作業の怖いところです。
メモリスロットのツメの割れ、CPU ソケット周りへの手の当たり、ケーブルの抜け。一つひとつは小さなことでも、原因が 2 つ重なると、どこが悪いのか誰にも分からなくなります。初期不良で交換を頼むときも、組み立てたときの状態から大きく変わっていないほうが話が早く進みます。
- パソコン本体(組んだ状態のまま)
- マザーボードとメモリの箱・説明書
- 外して試した部品があれば、その部品
- 試したことのメモ(どのランプで止まったか、何分待ったか、CMOS クリアや BIOS 更新をしたか)
特に「どのランプで止まったか」と「何分待ったか」のメモは、切り分けの近道になります。スマホでランプの様子を動画に撮っておくのもおすすめです。自作 PC のランプやエラーコードの読み方は、別の記事でも整理しています。

よくある質問
DRAMランプが点いたまま、どのくらい待てば故障を疑うべきですか?
一律の秒数は決められませんが、ロゴが出るまで数十秒かかるのは AM5 では珍しくありません。MSI の検証では、通常の起動でも約 43 秒かかっていました。初回や BIOS 更新の直後はさらに長くなることがあるため、数分は電源を切らずに待ち、それでもランプが消えない、毎回同じ所で止まる場合に、差し込みや設定を疑います。
Memory Context Restore を有効にすれば安全に速くなりますか?
起動は速くなりやすいですが、先に条件をそろえてから使うのが無難です。BIOS を最新の安定版にし、EXPO などのメモリ設定で安定して動くことを確かめてから有効にします。不安定になった場合は設定を無効に戻すか、CMOS クリアで初期化できます。
BIOS画面にも入れないときは、パーツの初期不良ですか?
初期不良とは決めつけられません。メモリの差し込み不足、モニターの接続先の違い、CPU 補助電源の挿し忘れ、BIOS が CPU に対応していないなど、原因は複数あります。電源を切ってから挿し直しと接続を確かめ、それでも変わらなければ、部品の差し替えを続けずに組んだ状態のまま専門店に見てもらうほうが部品を傷めません。
まとめ
AM5 で起動しないとき、DRAM ランプが点いたまま画面が出ないのは、多くの場合 DDR5 のメモリトレーニング中です。初回、メモリの交換、CMOS クリア、BIOS 更新、EXPO の有効化のあとは特に長くなります。待っても変わらないときは、電源を切ってから、モニターの接続先・補助電源・メモリの差し込み・BIOS の対応の順に確かめます。
沈黙タイムは、壊れている時間ではなく、パソコンが自分の体に慣れようとしている時間です。待つべき沈黙と、待っても終わらない沈黙。その見分けがつけば、組み立て直後の真っ暗な画面も、少しだけ怖くなくなります。それでも終わらない沈黙は、組んだ状態のまま持ってきてください。










