
先月、HPのBIOS更新がBitLockerループを引き起こすという記事を書きました。あの件、実はその後も続きがあって、同じ時期にDellでも全く別の原因で大規模なBSOD(ブルースクリーン)が起きていました。2つの問題を並べて見ると、「Windowsが壊れた」と見えるトラブルの意外な構造が浮かび上がってきます。今回はその話をします。
前回のHP BitLockerループの記事を読んでいない方は、先にそちらを読んでもらえると話がつながりやすいです。今回はその「その後」と、Dellで起きた別の問題を合わせた内容になっています。
前回の記事でお伝えした通り、HPが2026年4月に配布したBIOSアップデートが、EliteBook・ProBook・ZBookなどの法人向けノートPCでBitLockerの回復ループを引き起こしました。HPは問題を公式に認定し、対処法を案内しました。
暫定的な対処法は「BIOSの設定画面に入り、Secure Boot 2023の新しい証明書を手動で受け入れる」というものでした。技術的には正しい手順なのですが、1台ずつ手作業が必要というのが問題で、企業の情報システム担当者にとっては数百台規模で同じ作業を繰り返すことになります。
BIOSファームウェアはWindowsとは独立した領域で動いています。MicrosoftはWindowsのアップデートを通じてドライバーの問題を遠隔修正する仕組みを持っていますが、メーカーが独自に配布するBIOSには手が届きません。HPのBIOSを直せるのはHPだけ。そしてHPが修正版BIOSを出すまでは、現場の担当者が1台ずつ手を動かすしかありませんでした。
HPはこの問題を引き起こした背景として、Microsoft が進めていた Secure Boot証明書の移行(2011年発行の旧証明書 → 2023年版)のタイミングと重なったことが挙げられます。旧証明書の有効期限が2026年6月に切れるため、この移行はすべてのWindowsパソコンで必須の作業でした。HPのBIOSはその移行プロセスの途中でつまずき、起動チェーンが中途半端な状態で止まってしまったことがループの根本原因でした。
その後HPは修正版BIOSをリリースし、現時点では問題は収束しています。ただ「修正版が出るまでの間に影響を受けた端末の数」を考えると、企業への影響は小さくなかったはずです。
HPの問題が収束に向かっていた2026年5月、今度はDellのパソコンで大規模な問題が発生しました。XPS・Alienware・Latitude・Precisionといった機種のユーザーから「だいたい30分おきにブルースクリーンが出て再起動される」という報告が相次いだのです。
最初は「ちょうどWindowsの月例更新が出たタイミングだったからWindowsが原因では」と思われていました。でも調べてみると、原因はDellが提供する「SupportAssist」というソフトのバージョン5.5.16.0だったことがわかりました。
Dellのパソコンに最初からインストールされているメンテナンスツールです。ハードウェアの異常を診断したり、ドライバーを自動更新したり、「パソコンを健康な状態に保つ」ことを目的にしたアプリです。
そのソフトが、今度はWindowsを壊す側に回ってしまいました。
SupportAssistの内部サービス(「SupportAssist Remediation」)が、Windowsのカーネル(OSの中核部分)から「重要なシステムプロセス」として認識される状態で動いていました。
Windowsは重要プロセスがクラッシュすると、「システムが危険な状態になった」と判断して強制的にブルースクリーン+再起動をかけます。これはWindowsが正常に機能している証拠でもあるのですが、今回のケースではSupportAssistが約30分おきにクラッシュするせいで、連動してパソコンも30分ごとに落ちる、という状態になっていました。
エラーコードは 0xEF_DellSupportAss_BUGCHECK_CRITICAL_PROCESS で、エラーコード自体にDellのソフト名が入っているという、わかりやすい証拠でした。
Dellは問題を公式に認定し、対処法として「SupportAssist Remediationをアンインストールする」ことを案内しました。結局、「パソコンを守るためのソフト」をアンインストールすることで問題が解決するという、何とも皮肉な結末になりました。
被害が広がった最初の48時間でDellのサポートフォーラムには300件を超える報告が集まり、XPS・Alienware・Latitude・Precisionと幅広い機種が影響を受けました。
SupportAssistによる同様のBSODは、2024年12月にも起きています。「アップデート後にBSOD → コミュニティが原因を突き止める → Dell公式が後から認定」という流れまでほぼ同じ。1年半で2度同じパターンを繰り返しているのは、品質管理に根本的な課題があると言わざるを得ません。
「パソコンを健康に保つためのツールがBSODを起こす」って、相当笑えない話ですよね。しかも2回目ということは、前回の問題から十分な教訓が活かされていなかったということになります。
修理現場の感覚としても、DellのSupportAssistはトラブルの原因として上がってくることが珍しくないので、今回の件は「またか」という印象でした。
今回のHPとDell、2つの事例に共通することがあります。問題を起こしたのはメーカー側のソフトやファームウェアなのに、表面上は「Windowsのトラブル」として見えるということです。
BitLockerの回復画面もブルースクリーンも、画面に表示されるのはWindowsのUIです。だから「Windowsが壊れた」と感じるのは自然な反応です。でも原因を掘り下げると、全然別のところにある。
| 事例 | 見た目の症状 | 本当の原因 |
|---|---|---|
| HP EliteBook 等(2026年4月) | BitLocker回復ループ | HPのBIOSアップデートの不具合 |
| Dell XPS・Alienware 等(2026年5月) | 30分ごとにBSOD | DellのSupportAssist v5.5.16.0の不具合 |
| CrowdStrike障害(2024年7月) | 世界規模でWindowsが起動不能 | セキュリティソフトのドライバー不具合 |
2024年のCrowdStrike障害も同じパターンでした。世界中のWindowsパソコンが一斉に落ちた事件ですが、Windowsそのものは何も悪くなかった。でも「Windowsが壊れた」という印象だけが世間に残りました。
Windowsはパソコン上で動くすべてのソフトやドライバーの「下」にいるOSです。上で何かが壊れても、画面に出てくるのはWindowsのエラー画面。Windowsはどんな原因でも「見た目上の犯人」にされやすい構造になっています。
2025年が品質的に特にひどい年だったことへの反省から、Microsoftは2026年に入って本腰を入れた品質改善に取り組んでいます。その中でも今回の問題に関係する取り組みが「Driver Quality Initiative(ドライバー品質改善)」と「Cloud-Initiated Driver Recovery(CIDR)」です。
Windows Updateを通じて配信された問題のあるドライバーを、Microsoftが遠隔で以前の正常なバージョンに自動ロールバックできる仕組みです。OEMがドライバーの修正版を出すのを待たずに、Microsoft側で対処できるようになります。
2026年5月〜8月でテスト中で、2026年9月から問題ドライバーへの自動適用が開始される予定とされています。
これ自体はとても良い取り組みです。ただ、今回のHP・Dellの問題には対応できません。
CIDRが対象にできるのは「Windows Updateを通じて配信されたドライバー」だけです。HPのBIOS更新はHPが独自に配布したもの。DellのSupportAssistはDellが独自に配布したソフト。Microsoftには、これらを遠隔でロールバックしたりアンインストールしたりする手段がありません。
Microsoftがどれだけ品質改善に取り組んでも、OEMメーカーが独自に配布するソフトやBIOSの品質まではコントロールできない。Windowsパソコンの安定性は、MicrosoftだけでなくOEMメーカーの品質管理にも大きく依存している——これが今回の件で改めて浮き彫りになった構造的な問題です。
修理の現場でも、「Windowsを再インストールしたのに直らなかった」というケースがたまにあります。原因を調べるとドライバーやメーカーツールだった、ということが実際に起きます。
「Windowsの再インストール」は万能な解決策ではなくて、原因がOS以外にある場合は再インストールしても根本的には何も変わらないんですよね。だからまず原因を特定することが大事で、そこが一番難しいところでもあります。
完全に防ぐことは難しいですが、知っておくと役立つことをまとめておきます。
アップデートのあとにパソコンがおかしくなったとき、すぐにWindowsを疑う前に確認してほしいことがあります。
DellのSupportAssistのような「メーカー純正のサポートツール」は最初からインストールされていることが多いです。アップデートの自動化や診断機能など便利な部分もありますが、今回のようにソフト自体が問題を起こすリスクもあります。
使っていないメーカーツールはアンインストールしても基本的に問題はありません。何をアンインストールしていいか判断がつかない場合は、そのままにしておくか、一度確認してもらうのが安心です。
特に困ったことが起きていない状況でのBIOSアップデートは、配信されてすぐに適用する必要はありません。数週間ほど様子を見て、問題報告が出ていないことを確認してからでも十分です。今回のHPのケースのような問題は、数日〜1週間以内には表面化します。
今回の件を通じて言えることを整理します。
「急におかしくなった」「何をやっても直らない」というときは、ぜひご相談ください。症状の切り分けからお手伝いします。
https://www.windowslatest.com/2026/06/08/not-microsoft-but-oems-are-quietly-bricking-windows-11-pcs-heres-what-you-need-to-know/
https://www.dell.com/support/kbdoc/en-in/000464214/
https://support.hp.com/us-en/document/ish_14914515-14914500-16
「何度直してもブルースクリーンが出る」「BitLockerの画面が繰り返し出てくる」「再インストールしたのに改善しない」——原因の切り分けが難しいケースこそ、お気軽にご相談ください。
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