
修理店の責任の線引きについて
修理の仕事をしていると、故障そのものより難しいのが「説明」だったりします。 どこまでが修理店の作業なのか。どこからがお客様ご自身の操作によるものなのか。 この線引きは、毎回ちゃんと意識しないといけないなと感じています。
今回は、ゲーミングノートのグリスアップ作業のあとに起きた出来事と、最近増えてきた「AIで作られた問い合わせ文」への向き合い方について、記録として残しておきます。
4月29日、海外から留学されている方と思われるお客様より、ゲーミングノートパソコンの内部清掃とグリスアップのご依頼をいただきました。
分解して確認したところ、CPUとGPU周辺には液体金属が使用されていました。当店ではその時点で液体金属を使った再施工には対応していなかったため、手持ちのMX-4グリスで施工可能な範囲を対応しました。
✅ 内部の埃を除去
✅ グリスを塗り直し
✅ 元の状態に組み戻し
❌ GPUやチップの交換はしていません
❌ 配線の加工もしていません
❌ BIOSやWindowsの設定変更もしていません
組み戻して電源を入れたところ、本体は通電し起動動作も確認できました。ただ、お客様が使用されていたWindows 10が正常に起動しない状態でした。
ここで大事なのは、「パソコン本体が完全に壊れた」状態ではなかったということです。 電源が入らない・ファンが回らない・画面が真っ暗・電源を入れた直後に落ちる——といった、冷却不良に直結するような症状はありませんでした。
Windowsの起動不良として見るべき状況だったため、お客様の同意のもとでWindowsを再インストールするためのUSBメモリーを無償でお渡しし、手順書もお付けしました。お帰りの際に「何かあったらまた相談していいですか」と仰っていただいたので、もちろんどうぞとお伝えしました。
5月2日の深夜に、お客様からご連絡がありました。Windows 11をインストールしたところ、デバイスマネージャー上でGPU(AMD Radeon RX 6800M)に「コード43」が表示され、グラボが使えないとのことでした。
Windowsがそのデバイスを正常に動かせないとき表示されるエラーコードです。 物理的に壊れている場合もありますが、ドライバーが正しくインストールされていないだけでも表示されます。 特にWindowsを新規インストールした直後は、グラフィックドライバー・チップセットドライバー・メーカー純正の制御ソフトが揃っていないと、GPUが認識されていても動かないことがよくあります。
つまり今回の状況では、まず疑うべきはグラフィックドライバーやチップセットドライバーの未導入・不整合です。コード43=物理故障、とは言い切れないわけです。
送られてきた文章を読んで、おそらくAIで作成されたものだと感じました。文章の構造や表現のトーンから、そう見えました。
AIを使うこと自体は悪くありません。むしろ、言葉に不安のある方や、海外から来られている方が日本語で正確に伝えようとするなら、AIはとても便利な道具です。それは自然な使い方だと思います。
ただ今回少し難しかったのは、その文章がお客様側に有利な前提で組み立てられていた点でした。
本来の時系列は:
「グリスアップ後 → Windows 10が起動しなかった → お客様ご自身でWindows 11をインストールした → コード43が出た」
送られてきた文章では「グリスアップ後にグラボが使えなくなった」という書き方になっており、お客様がWindows 11を自分でインストールしたという経緯が抜けていました。
AIは入力された情報をもとに文章を作ります。抜けている事実があれば、抜けたまま文章になります。お客様が「修理店の作業が原因だと思う」という前提で入力すれば、そのまま修理店の責任を問う文章になります。
AIの文章が悪いわけじゃないんです。ただ、「事実の順番」まではAIが保証してくれるわけじゃない。だから修理店側は、感情的に反応するんじゃなくて、落ち着いて時系列を整理することが大事だなと改めて思いました。
- 14/29:内部清掃・グリスアップを実施
- 2作業後:本体通電・起動動作を確認。Windows 10の起動不良を確認
- 3同日:お客様同意のもと、Windows再インストール用USBと手順書を無償提供
- 4その後:お客様ご自身でWindows 11をインストール
- 55/2深夜:AMD Radeon RX 6800Mにコード43が表示されているとご連絡
- 6コード43はドライバー未導入・不整合でも発生する
- 7内部作業が原因かは、実際に確認しないと断定できない
内部の取り付け状態・配線・冷却部品の固定については、無料で確認します。お客様が不安に思っているなら、それは当然確認すべきことです。
ただし、確認の結果、内部作業には問題がなく、原因がWindows 11インストール後のドライバー未導入や設定不備だった場合は、それはグリスアップとは別の作業です。そこまでを内部清掃の責任として扱うことはできません。
私たちが知っている「Windowsを入れ直したらまずドライバーを入れる」という常識は、パソコンに詳しくない方には当たり前ではありません。ましてや、海外から来られている方、日本語での説明に不安がある方であればなおさらです。
だからこそ説明が必要だし、丁寧に話すことが大事だと思っています。ただ、説明を尽くすことと、すべての責任を負うことは違います。
✅ 当店がやった作業については、当店が責任を持つ
✅ 確認できることは無料で確認する
✅ わからないことはわかりやすく説明する
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❌ お客様ご自身が行った操作の結果まで、すべてこちらの過失として扱うことはできない
❌ 事実の順番が整理されないまま、無償対応を迫られ続けることは受け入れられない
これは国籍や文化の違いの話ではなく、日本のお客様でも同じです。自分で行った作業については自分で責任を持つ、修理店が行った作業については修理店が責任を持つ——この線引きはどこでも共通のはずです。
AIで作られた問い合わせ文がこれからも増えていくなら、修理店側に必要なのは感情的に反応することではなく、事実を時系列で整理して、冷静に説明する力だと思っています。修理の技術と同じくらい、記録力と説明力が大切になってきていると感じています。
まずはお客様の不安な気持ちに寄り添って、できる確認は全部やります。それが修理店のスタート地点。ただ、寄り添うことと何でも無償でやることは別の話なので、そこだけははっきりと伝えるようにしています。
📎 参考リンク
「これって修理できる?」という段階でOKです。
LINEでの返信は月〜土 9:30〜19:00。














