
Windows 11をUSBメモリからクリーンインストールしようとしたのに、起動しない。挿して電源を入れても、黒い画面のまま。あるいは、何事もなかったかのようにいつものWindowsが立ち上がってくる。
この時点で多くの人が疑うのは、USBメモリです。「安物だったからかな」「壊れてるのかな」。そして新しいUSBメモリを買いに走る。私はこの現象を勝手に「USB冤罪」と呼んでいます。そのUSB、たぶん無実です。
まず、この現象がなぜ「冤罪」になりやすいのかを整理させてください。USBメモリを挿して電源を入れたのに何も起きないとき、目に見えて怪しいのはUSBメモリだけなんです。BIOSの設定は見えない。メディアの作り方の失敗も見えない。見えるのは手元の小さなUSBだけ。だから疑われる。かわいそうに。
店頭でこの相談を受けるとき、私が最初に確認するのはUSBメモリではありません。症状の出方です。大きく分けて2パターンあります。ひとつは「USBから起動すらしない」パターン。電源を入れてもいつものWindowsが立ち上がる、あるいはBIOS画面やメーカーロゴで止まる。もうひとつは「起動はするがインストールの途中で止まる・失敗する」パターン。この2つは犯人がまったく別で、前者は設定、後者はメディアかハードを疑うのが定石です。
2025年10月にWindows 10のサポートが終了して以来、古めのPCを自力でクリーンインストールして延命しようという方が明らかに増えました。当店に持ち込まれるこの手の相談で最も多い原因は、USBメモリの故障ではなく起動順序の設定です。つまり、直し方さえ知っていれば店に来なくてもよかったケースが多い。修理店の店長がそれを記事にするのはどうなんだという気もしますが、書きます。
店長より
意外に思われるかもしれませんが、PCはUSBメモリを挿されても、それを自動で読みにいってはくれません。電源を入れたPCは、あらかじめ決められた順番でストレージを見にいき、最初に見つけたOSを起動します。ふだんは内蔵のSSDやHDDが先頭に設定されているので、USBを挿していようがいまいが、いつものWindowsが立ち上がる。当然の動きなんです。Microsoftの公式サポートも、セットアップ画面が表示されない場合は「ドライブから起動できるようにPCがセットアップされていない可能性がある」と案内しています。
設定を恒久的に変えるより手軽なのが、起動時に一度だけ読み込み先を選べる「ブートメニュー」です。手順はこうなります。
なお、ブートメニューに「UEFI:」付きの項目とそうでない項目が両方出ることがあります。Windows 11はUEFI起動が前提なので、UEFI付きを選ぶのが基本です。店頭では、古い自作PCでCSM(レガシー互換モード)が有効なままUEFI項目が出てこない、というケースも見かけます。心当たりのある方はBIOS設定でCSMを無効にしてから再確認してみてください。ここまでやってもUSBが一覧に出ないなら、犯人は設定ではなくメディアです。
起動順序が正しいのに起動しない。あるいは起動はするのに途中で止まる。この場合に疑うのが、インストールメディアそのものの作り方です。確実なのは、Microsoft公式のWindows 11ダウンロードページから「メディア作成ツール(MediaCreationTool)」を入手し、ツールの案内に従ってUSBメモリに書き込む方法です。公式の要件では、8GB以上の空き領域があるUSBメモリが必要で、作成時にドライブの中身はすべて削除されます。
また、作成途中でエラーが出た・書き込みが異常に速く終わった、という場合はメディア自体が不完全です。何年も使い込んだUSBメモリや、ノベルティでもらった素性の分からないUSBメモリは、書き込みに成功したように見えて一部のデータが壊れていることがあります。作り直すときは、できれば買ったばかりの空のUSBメモリで、公式ツールからやり直すのが早道です。急がば回れというやつです。回った先にまた落とし穴があるのがPCの世界ですが、それは次の章で。
ここからが、この記事でいちばん伝えたい話です。同じインストールUSBを使っても、「どこから実行するか」でデータの運命が真逆になります。私はこれを「消える分岐」と呼んでいます。USB冤罪は笑い話で済みますが、こちらは済みません。
Microsoft公式の再インストール手順は、大きく2つに分かれています。Windowsが起動する状態でUSB内のsetup.exeを実行する方法と、USBから直接起動してクリーンインストールする方法。前者では「個人用ファイルとアプリを保持する」という選択肢が既定で用意されています。後者には、それがありません。
ネット上の解説では、この2つが「再インストール」という同じ言葉でまとめて語られがちです。だから「保持オプションを選べば大丈夫」と思い込んだままUSBから起動して、選択肢が出てこないまま初期化まで進んでしまう。分岐に気づくのは、たいてい消えたあとです。
そしてもうひとつ、クリーンインストールの途中には静かな罠があります。インストール先を選ぶ画面で、パーティションを削除する対象は「ディスク0」だけ。Microsoft公式も、複数のディスクがある場合はディスク0以外のパーティションを変更・削除しないよう警告しています。
店長より
起動順序を直した。公式ツールでUSBを作り直した。それでも起動しない、あるいはインストールが途中で止まる。ここまで来て初めて、ハードウェアの故障が容疑者リストに入ります。疑う順番は3つです。
切り分けは単純で、別のポートに挿す、別のPCで同じUSBが起動するか試す、の2つ。別のPCで起動するならメディアは正常で、問題は元のPC側にあります。どのPCでも起動しないなら、そこで初めてUSB冤罪が冤罪でなくなります。ちゃんと容疑を確かめてから買い直しましょう。
見落とされがちなのがこれです。「調子が悪いから再インストールしよう」と考えたその不調の正体が、実はストレージの故障だったというパターン。この場合、インストール先のディスクが一覧に出てこない、コピー中にエラーで止まる、何度やり直しても同じ場所で失敗する、といった症状が出ます。実機で切り分けをしていると、インストールの失敗そのものがストレージの死亡診断書になっていることがあります。
そして、ここが再インストールの怖いところなんですが、死にかけのストレージに対してインストールを強行すると、パーティション削除や書き込みの負荷で、まだ読み出せたはずのデータまで取り出せなくなることがあります。再インストールは万能薬のように扱われがちですが、ハード故障には効かないどころか、残っていた復旧のチャンスにとどめを刺す薬にもなります。SSDの故障モードには書き込みで一気に悪化するタイプがあって、NANDの劣化とコントローラの……という話を始めると閉店時間になるので止めます。要は「順番→作り方→ハード」の順で疑い、ハードが怪しくなった時点でデータの心配を先にする。それだけ覚えて帰ってください。
店長より
まとめます。USBが起動しないとき、疑う順番は「起動順序→メディアの作り方→ハードウェア」。そして手を動かす前に「消える分岐・消えない分岐」のどちらに入ろうとしているかを確認する。USB冤罪で無駄な買い物をしないこと、消える分岐で泣かないこと。伝えたいことは書きました。あなたのUSBメモリの無実が、一日も早く証明されますように。














