
先日、外付けHDDを抱えたお客様が来店されました。開口一番、「chkdskもフォーマットも試したんですけど、全然直らなくて」。
その瞬間、私の顔から表情が消えたのが自分でも分かりました。
お客様は何も悪くありません。むしろ真面目な方です。エラーが出た。だから直そうとした。ネットで調べて、書いてある通りにコマンドを打った。完璧に善意です。
ただ、外付けHDDやSSDが出す「ファンクションが間違っています」というエラーに限っては、その善意が最悪の一手になることがある。私はこれを勝手に「善意のトドメ」と呼んでいます。今日はその話をします。よろしくお願いします。
「ファンクションが間違っています」。
日本語として、意味が分かりません。ファンクションって誰だよ、と思った方は正常です。
元の英語は “Incorrect function”、Windows のシステムエラーコードでいうと 0x80070001 にあたります。訳すなら「その操作、このドライブには通じませんでした」くらいの意味。つまりこれは結果の報告であって、原因の説明ではないのです。
ケーブルが緩んでいても、基板が焼けていても、Windowsは同じ一言しか言ってくれない。
ここがこのエラーの本当に厄介なところです。5分で直る話と、二度とデータが戻らない話が、まったく同じ顔をして出てくる。だから素人判断で手を出すと事故る。ベテランでも、まず顔色を見るところから始めます。
このエラーの原因は、大きく4つの層に分かれています。上の階ほど軽症で、下の階ほど重症。そして下の階に行くほど、自分で触ってはいけない。まずはこの構造を頭に入れてください。
おわかりいただけたでしょうか。1階と4階では、やるべきことが正反対なんです。1階なら「ケーブルを差し替える」が正解。4階では「何もしない」が唯一の正解になります。
で、ここからが本題です。多くの人はエラーを見た瞬間、こう考えます。
「エラーが出た。エラーは直すもの。修復コマンドを打とう」
この反射こそが、3階と4階の住人にとっては致命傷になります。具体的に、よくあるトドメ3種を挙げます。
chkdskは「壊れた管理情報を、辻褄が合うように書き換える」コマンドです。読める部分だけでも救い出したい場面で、その読める部分を上書きしにいくことがある。しかもファイルシステムがRAW化していると「RAWドライブにCHKDSKは使用できません」と拒否されるだけ。打つ意味すらないケースがあります。 ② 「フォーマットしますか?」に、はい
これは説明不要ですね。押した瞬間に管理情報が作り直され、データは行き先を失います。この世で最も押してはいけない「はい」です。 ③ 認識するまで抜き差し連打
異音がしている、あるいは認識が出たり消えたりしているHDDに対して、これは最悪です。通電と再接続を繰り返すたびに読み取りエラーが増え、さっきまで取り出せたはずのファイルが読めなくなっていきます。
直そうとした操作が、復旧の可能性を削っていく。これが「善意のトドメ」の正体です。
ここでちょっとだけ真面目な話をさせてください。
私は店で何百台と壊れた機械を見てきて、ひとつ確信があります。人間は、不安を前にすると「何もしない」ができない生き物なんです。データが消えるかもしれない、という恐怖に耐えられなくて、その不安を埋めるために何かを操作してしまう。手を動かしている間だけは、なんとかしている気になれるから。
しかも今回のエラーは、Windowsが原因を何も教えてくれない。情報がない状態で不安だけが増える。人が一番おかしな行動を取る条件が、きれいに揃っているんです。エラーメッセージの不親切さが、そのまま人間の判断ミスを誘発している。これはもはや設計の……
……という話を続けると、UI設計論から認知心理学の話まで膨らんで帰ってこられなくなるので、この辺でやめておきます。
覚えて帰っていただきたいのは、たった一行です。復旧の世界では、何もしないことが最強の一手である場面が確実にある。
お待たせしました。ここからは、やっていいことだけを順番に書きます。上から順に。飛ばさずに。
ここまで散々脅かしてきたので、最後に希望のある話を。
外付けHDD・SSDというのは、実は「ドライブ本体」+「USB変換基板」+「ケース」という組み合わせでできています。そして現場でよく遭遇するのが、ドライブ本体は無事なのに、USB変換基板だけが死んでいるというパターン。
この場合、Windowsから見れば「アクセスできない」で一括りですが、実態は中身は全部生きている。ケースから取り出して別の方法で接続すれば、データがそのまま読み出せることがあります。写真も、書類も、無傷で。
つまり「開けない=データが消えた」ではないんです。開ける道が塞がれているだけ、ということが本当にある。
ただし——この判断は、通電と操作を繰り返した後では成立しません。手を出す前に持ってきていただくほど、救える確率は上がります。冒頭のお客様のように「chkdskもフォーマットも試しました」と言われた時点で、こちらが打てる手は確実に減っているんです。
長くなったので、要点だけ。
・原因は4階建て。上2階(ケーブル・ドライブ文字)なら自力で直る。下2階(ファイルシステム破損・物理故障)は触るほど遠のく
・chkdsk・フォーマット・抜き差し連打は「善意のトドメ」。直そうとした操作が、復旧の可能性を削る
・異音がしたら、その場で電源を抜く。何もしないことが最強の一手になる場面がある
・変換基板だけの故障なら、中身は無傷で取り出せることがある。諦める前に、まず手を止める
大事なデータほど、焦ります。焦ると手が動きます。手が動くとトドメが刺さります。
だから、順番を逆にしてください。まず手を止める。話はそれからです。
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