
「Claude Codeで作ったカピバラのゲームで、2万5000ドル稼ぎました」
この見出しを見た瞬間、私は完全に手が止まりました。2万5000ドル。日本円でざっくり380万円くらい。ゲーム開発は未経験。制作期間は2週間。使ったのはClaude Code。
私はその場で「なるほど、これはもう店を畳んでカピバラを作るべきなのでは?」という顔になりました。苫小牧でパソコンの電源が入らない相談を受けている場合ではない。カピバラだ。カピバラが金を運んでくる時代が来たのだ。
……で、落ち着いて元をたどってみたら、その380万円はゲームの売上ではありませんでした。
賞金です。コンテストの、優勝賞金。
これ、嘘をついているわけではないんですよ。実際に本人の手元に2万5000ドル入っているので、「稼いだ」は事実です。事実なんだけど、読んだ側の頭の中に浮かんだ絵とは、まるで別物なんですね。
今日はこの「嘘じゃないけど本当でもない」という状態について書きます。というのも、これ、AIまわりのニュースでものすごく頻繁に起きているからです。よろしくお願いします。
まず、実際に起きたことを正確に
感情で殴られる前に、事実を並べます。ここは一切ふざけません。
2026年4月から5月にかけて、「Vibe Jam 2026(Cursor Vibe Coding Game Jam)」というAIゲーム開発コンペが開催されました。主催は Pieter Levels 氏(@levelsio)。ルールは「コードの90%以上をAIが生成していること」「2026年4月1日以降に新規作成したゲームであること」「ブラウザで、ログインなし・無料で遊べること」。応募総数は約1000本。
この中で1位(ゴールド賞・賞金2万5000ドル)を獲得したのが、@leocooout 氏の「A Game About Capybaras Delivering Food」——カピバラが街で食べ物を配達するゲームです。2位は1万ドル、3位は5000ドル。賞金総額は4万ドルで、前年の1万7500ドルから倍以上に増えています。
この中で1位(ゴールド賞・賞金2万5000ドル)を獲得したのが、@leocooout 氏の「A Game About Capybaras Delivering Food」——カピバラが街で食べ物を配達するゲームです。2位は1万ドル、3位は5000ドル。賞金総額は4万ドルで、前年の1万7500ドルから倍以上に増えています。
つまり、2万5000ドルはコンペの1等賞金です。ゲームを売ったお金でも、広告収入でもありません。約1000本の中から1位を勝ち取った対価であって、「Claude Codeでゲームを作れば380万円入る」という話では、まったくない。
ここを取り違えると、この記事の続きが全部おかしくなります。
「お金の出どころ問題」
私はこの手のすれ違いに名前をつけました。「お金の出どころ問題」です。
「◯◯で△万円稼いだ」という文章を読むとき、人間の脳は勝手に「その◯◯が、繰り返し金を生む仕組みになっている」と補完します。誰も「賞金かもしれないな」とは考えない。「売れたんだな」と思う。だって「稼いだ」ってそういう響きじゃないですか。
でも実際のお金の出どころは、大きく分けるとこれだけの種類があります。
| 出どころ | 再現性 | 読者が想像しがちな絵 |
|---|---|---|
| 商品の売上 | あり(続く) | ◎ たいていこれを想像する |
| 広告・アフィリエイト収入 | あり(続く) | ○ |
| コンペの賞金 | なし(単発) | × ほぼ想像されない |
| 受注・案件の報酬 | 条件つき | △ |
| 投げ銭・支援金 | 不安定 | × |
今回のカピバラは、この表の下から3番目にいます。単発。しかも1000本中1位という、極めて再現しづらい単発。
「稼いだ」という一語は、この5行を全部まとめて飲み込んでしまう。便利すぎるんですよ、この言葉。だから読むときは、必ず一回止まって聞いてください。「で、そのお金、どこから出たんですか?」
これ、AIに限った話じゃないんです。「せどりで月50万」「ブログで100万」も同じ構造。出どころを1回聞くだけで、話の8割は正体が見えます。
「未経験フィルター」——自己申告は、検証されていない
もう一つ、この話には効きすぎているフレーズがあります。「ゲーム開発は未経験」。
これが刺さるのはよく分かります。だって、未経験の人が1000本の頂点に立ったのなら、私たちにも可能性があるということになる。希望です。希望は売れます。
ただ、冷静に言うと——「未経験」は本人の申告です。誰かが履歴書を確認したわけではない。
「ゲーム開発は未経験」は、「プログラミング自体が未経験」とイコールではありません。今回の作者はThree.jsという3Dライブラリを使い、自分のドメインでゲームを公開し、Claude Codeをコマンドラインで動かしています。少なくとも、開発環境に不慣れな人の動きではない。
「ゲーム開発は初めて」と「パソコンのことは何もわからない」の間には、太平洋くらいの距離があります。
「ゲーム開発は初めて」と「パソコンのことは何もわからない」の間には、太平洋くらいの距離があります。
私はこれを「未経験フィルター」と呼ぶことにしました。「未経験」の一語が、その人が実は持っている前提スキルを、読者の視界からごっそり消してしまう現象です。
店でもよくあります。「パソコン初心者なんですけど」と言いながら、自分でメモリを増設した経験のある方が来る。逆に「けっこう使えるほうだと思います」と言いながら、電源ボタンの長押しを知らない方も来る。自己申告というのは、そういうものです。悪気ではなく、単に基準が人それぞれなんですね。
じゃあ、このニュースは価値がないのか
ここまで「賞金だぞ」「未経験は自己申告だぞ」と水を差してきました。性格が悪い。自分でもそう思います。
でも、ここからが本題です。私は、この事例をものすごく価値があると思っています。ただし、多くの人が価値だと思っている場所とは、違うところに。
本人が語った制作の工程が公開されているんですが、これが本当に面白い。使った道具はこうです。
カピバラ配達ゲームの道具立て
1Claude Code:コードの記述をすべて担当
2Three.js:ブラウザで3Dを動かすエンジン
3Tripo3D:3Dモデル(カピバラや街の物)を生成
4Suno:オリジナル音楽を生成
5ElevenLabs:効果音・音声を生成
6GPT images-2 / Grok:テクスチャ・イラストを生成
見事に全部AIです。コードも、3Dも、音楽も、効果音も、絵も。ここだけ見ると「人間、何もしてなくない?」となる。
ところが、本人が語った時間の使い方を見ると、話がひっくり返ります。
報告によれば、彼のワークフローはこうです。
①ゲームの中心となる遊びの仕組みを、自分で決める → ②Claude Codeの「計画モード(/plan)」で、全機能を先に設計させ、自分が承認する → ③AIツールで素材を生成する → ④残った時間のほとんどを、最後の仕上げ・小物の配置・「デザインの手触り」の調整に使う
本人いわく、ほとんどのバイブコーダーが軽視しているのは、この最後の「人間の部分」だ、と。
①ゲームの中心となる遊びの仕組みを、自分で決める → ②Claude Codeの「計画モード(/plan)」で、全機能を先に設計させ、自分が承認する → ③AIツールで素材を生成する → ④残った時間のほとんどを、最後の仕上げ・小物の配置・「デザインの手触り」の調整に使う
本人いわく、ほとんどのバイブコーダーが軽視しているのは、この最後の「人間の部分」だ、と。
読み返してください。①も④も、AIが一行も書いていない工程です。
ゲーム内の映像演出(シネマティック)も象徴的で、彼はClaudeに「タイムラインとカメラ操作つきの編集ツール」を作らせて、カメラの位置は自分で置いています。道具はAIに作らせ、道具を振るうのは自分。
つまりこの事例が本当に証明したのは「AIがゲームを作れる」ではありません。「実装が自動化されると、人間の仕事は”何を作るか決めること”と”完成の基準を持つこと”に凝縮される」ということです。
これ、パソコン修理も同じなんですよ。部品交換は誰でもできる。手順書もある。でも「どこが壊れているか見極める」は消えない。むしろ作業が簡単になるほど、見極めの価値だけが残っていく——
……という話を始めると、あと5000字くらい書けてしまうのでやめておきます。今日はAI成功談の読み方の話でした。すぐ脱線するのが私の悪いところです。
AI成功談を読むときの、3つの確認
実用的なところに着地させます。ネットで「AIで◯◯できた!」を見たら、この3つだけ確認してください。30秒で終わります。
30秒チェック
1お金の出どころ問題:金額が出ていたら「売上/賞金/案件/広告」のどれかを確認する。書いていなければ、書いていないこと自体が答えです。
2未経験フィルター:「未経験」の中身を見る。何の未経験なのか。前提として持っていたスキルは何か。
3工程が公開されているか:結果だけの話は再現できません。工程が書いてある話は、金額が0円でも価値があります。
今回のカピバラは、①でつまずいたけれど、③が満点でした。だから読む価値があった。むしろ賞金の話を全部消しても、工程の話だけで十分すごい記事です。
逆に言うと、金額が大きい話ほど③が空っぽ、というパターンをよく見ます。金額は釣り餌で、工程がないなら、それは学ぶものが何もないということです。
言いたいことは言いました
まとめます。
2万5000ドルは賞金です。売上ではありません。「未経験」は自己申告です。そして——それでもこの事例は本物です。ただし本物なのは金額ではなく、工程のほうです。
AIのニュースは、これからも毎週やってきます。景気のいい数字と一緒に。そのたびに「お金の出どころ問題」と「未経験フィルター」の2枚を通してから飲み込んでください。それだけで、振り回される回数がだいぶ減ります。
そして、ちゃんと工程が書いてある記事に出会ったら、金額は無視して工程だけ読んでください。そっちに全部入っています。
ちなみにカピバラのゲームは無料で遊べます。私も遊びました。配達、めちゃくちゃ難しいです。結論:カピバラは偉い。
参考リンク
Vibe Jam 2026 公式サイト:https://vibej.am/2026/
受賞作品「A Game About Capybaras Delivering Food」:https://capybara-vibejam26.leocoout.dev/
Claude Code 公式ドキュメント(Plan Mode):https://code.claude.com/docs/en/permission-modes
※制作工程・使用ツールについては、開発者本人の発信および第三者による要約に基づいています。開発者の過去の開発経験、制作にかかった費用など、独立して検証できていない項目が含まれます。本記事では確認できた範囲を明示しています。
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