
最近、店で立て続けに同じ相談を受けました。「起動しなくなったパソコンから、写真だけでも取り出せませんか」。
話を聞くと、みなさんちゃんとバックアップを撮っているんですよ。Clonezilla(クローンジラ)という定番の無料ツールで、ディスク丸ごと。えらい。えらすぎる。バックアップを撮っている時点で、世のパソコン利用者の中でかなり上位の優等生です。
ところが、ここに落とし穴があります。Clonezillaは「丸ごと撮って、丸ごと戻す」専門のツールでして、「あのフォルダの写真だけ返して」ができません。公式にできません。年賀状データ1枚のために、500GBをまるっと別のディスクへ復元するという壮大な引っ越しが始まります。米俵ごと買わないと米一粒が食べられない世界です。
それを解決してくれるRescuezilla(レスキュージラ)というツールがあるのですが、こちらはこちらで問題を抱えています。Clonezillaの初期設定のまま撮ったバックアップを、開けないのです。撮れたのに、開けない。私はこの状態を「開かずのイメージ」と呼んでいます。撮った本人は安心しきっているのに、いざという日に金庫の鍵が合わない。バックアップ界でいちばん切ないやつです。
今日は、USBメモリ1本にClonezillaとRescuezillaを同居させて、バックアップを「撮る」ところから、中身を「開けて取り出す」ところまでの全手順を書きます。ダウンロード先から順に、パソコンが得意でない方でも追えるように書きますので、長いですがお付き合いください。よろしくお願いします。
まず登場人物の整理から。Clonezillaは20年以上の歴史がある無料のバックアップツールで、パソコンのディスクを丸ごと1つの「イメージファイル」として保存してくれます。使っている部分だけを賢くコピーするので容量効率も良く、世界中の業者やIT部門が使っている、いわば業界標準です。当店のメンテナンス用USBにも常駐しています。
一方のRescuezillaは、そのClonezillaと互換性を持たせて作られた、マウス操作で使えるツールです。今回の主役は、その中の「Image Explorer」という機能。Clonezillaで撮ったイメージファイルを、普通のフォルダのようにパカッと開いて、中から必要なファイルだけコピーできます。役割分担はこうです。
この「開ける圧縮形式に制限あり」が、開かずのイメージの正体です。「じゃあ最初から全部Rescuezillaでやればいいのでは?」という声が聞こえてきそうですが、バックアップの撮影自体は歴史が長く実績の厚いClonezillaに任せたい、というのが店としての本音です。撮る係は信頼と実績のベテラン、開ける係は気の利く若手。適材適所というやつです。そしてこの相性問題、実際に海外でも被害者が出ています。
必要なのは次の3つです。1つめは起動用のUSBメモリ(8GB以上)。ここにツール2つを入れます。2つめはバックアップ保存用の外付けHDDまたは大容量USB。バックアップ本体はサイズが大きいので、起動用USBとは必ず別のドライブを用意してください。3つめは、あると楽なもので、取り出したファイルの避難先になるUSBメモリ。合計でドライブ3台体制が理想です。多い? パソコンの中身の値段を思えば安いものです。
起動USBの作成にはVentoy(ベントイ)を使います。昔ながらの方法だとツール1つにつきUSB1本を「焼く」必要がありましたが、Ventoyを一度USBに入れてしまえば、あとはISOファイル(ツールの本体データ)をUSBにコピーするだけで起動メニューに並びます。ClonezillaとRescuezillaという2つのツールを1本のUSBに同居させられるのは、この仕組みのおかげです。
ちなみにISOファイルというのは、CDやDVDの中身を丸ごと1つのファイルに閉じ込めた形式のことで、拡張子が「.iso」になっています。サイズの目安は、Clonezillaが500MB前後、Rescuezillaが1GBを少し超えるくらい。あわせて2GB弱なので、8GBのUSBメモリで十分に収まります。ダウンロードは光回線なら数分、モバイル回線の方はWi-Fi環境での作業をおすすめします。では手順です。

作ったUSBメモリと、バックアップ保存用の外付けドライブをパソコンに挿して、電源を入れます。メーカーロゴが出た瞬間にブートメニュー用のキー(F12が多いですが、F2・F8・Escなどメーカーによります)を連打し、起動デバイスの一覧からUSBメモリを選択。Ventoyの青いメニュー画面が出たら、矢印キーで「clonezilla-live-3.3.3-15-amd64.iso」を選んでEnterです。ここからは選択画面が続きますが、キー入力が必要なのは実質1か所だけなので、肩の力を抜いていきましょう。
所要時間の目安もお伝えしておきます。バックアップにかかる時間は「ディスクの使用量」と「保存先ドライブの速度」で決まります。使用量100GB前後で外付けHDDに保存するなら1時間前後、使用量が多かったりUSB2.0の遅いドライブだったりすると数時間コースです。夕食前に仕掛けて、食後に様子を見るくらいの気持ちでどうぞ。途中で電源が落ちるのが一番困るので、ノートパソコンの場合は必ずACアダプタを挿した状態で始めてください。

バックアップが撮り終わったら、保存先ドライブは安全に取り外して、直射日光の当たらない場所へ。撮る頻度は「消えたら泣くデータがどのくらいのペースで増えるか」で決めてください。写真や書類が日々増えるパソコンなら月1回、たまにしか使わないパソコンなら大きな節目(年賀状シーズン前、確定申告前、Windowsの大型更新前)だけでも十分に価値があります。ゼロと1回の差が、この世でいちばん大きい差です。
「圧縮方式を変えるだけでそんなに変わるの?」と思った方のために、少しだけ仕組みの話をします。手順だけ知りたい方は次の見出しへ飛んでいただいて大丈夫です。
いよいよ開ける係の出番です。もう一度USBメモリから起動して、Ventoyのメニューで今度は「rescuezilla-2.6.2-64bit.resolute.iso」を選びます。しばらく待つとデスクトップ画面が立ち上がり、Rescuezillaが自動で開きます(開かない場合はデスクトップのアイコンをダブルクリック)。ここから先の画面は英語表示のみですが、押すボタンの名前をそのまま書いていくので、見比べながら進めば迷いません。
なお、取り出す作業は「バックアップを撮ったパソコン」でやる必要はありません。イメージの入った外付けドライブとこのUSBメモリさえあれば、別のパソコンでも作業できます。元のパソコンが完全に沈黙している場合は、家族の元気なパソコンを借りて開けましょう。ここが丸ごと復元との大きな違いで、Image Explorerなら他人のパソコンを1ミリも書き換えずに、覗いてコピーするだけで済みます。

まず疑うべきは圧縮方式です。手順1の7番で「-z1p」に変更し忘れてzstd(-z9p)のまま撮っていないか確認を。残念ながらzstdだった場合、そのイメージをImage Explorerで開く方法はなく、Clonezillaでの撮り直しが必要です。開かずのイメージ、供養しましょう。次からは開きます。
10GBを超える圧縮イメージは、開くのに時間がかかりやすい仕様です。気長に待つのが基本ですが、頻繁に取り出す予定があるなら、次回からClonezillaのExpertモードで無圧縮保存にすると劇的に軽くなります。容量と引き換えの快適さです。
Image Explorerはbeta機能で、NTFSや一部Linux形式との相性で失敗することがあります。何度か試す、対象のパーティションを変えてみる、で通ることが多いです。それでもダメなら当店へどうぞ(後述)。
Clonezilla側ならSMBのバージョン指定を「1.0」に変更して再試行する手がありますが、それでもダメなら深追いせず、ローカルのUSB・外付けHDD経由に切り替えるのが結局いちばん早いです。ネットワーク越しの作業は、うまくいけば快適、こじれると沼。今回の目的はファイルの救出であって、NASとの格闘ではありません。
今回は「起動しないパソコンからのファイル救出」を軸に書きましたが、この2本立てUSBが活躍する場面は他にもあります。せっかく作ったので使い倒しましょう。
まずパソコンの買い替え・初期化の前。新しいパソコンへの引っ越しで「移し忘れたファイルがある気がする」という不安、ありますよね。古いパソコンを手放す前にClonezillaで丸ごと1枚撮っておけば、半年後に「あの住所録どこいった」となっても、Rescuezillaで開けて取り出せます。丸ごと撮っているので、移し忘れという概念そのものが消滅します。
それから大きな作業の直前の保険。Windowsの大型アップデート、パーツ交換、動作の重いパソコンの初期化。こういう「うまくいけば快適、しくじると大惨事」な作業の前に1枚撮っておくと、精神の安定度がまるで違います。丸ごと戻したければClonezillaのrestoredisk、一部だけ欲しければRescuezillaのImage Explorer。攻めと守りの両対応です。実家のパソコンの面倒を見ているみなさんにも、帰省のたびに1枚撮る習慣を推しておきます。
長い記事になりました。最後に、この記事で本当に伝えたかったことを一つだけ。
バックアップというのは、撮った瞬間に完成するものではありません。必要なものが取り出せた瞬間に、初めて完成します。撮っただけの開かずのイメージは、金庫に入れた鍵のかかった箱と同じで、安心感だけをくれて中身をくれません。「-z1p」というたった4文字の設定変更は、その箱に合鍵を作っておく作業です。
撮る係のClonezillaと、開ける係のRescuezilla。USBメモリ1本に2つとも入れておけば、それはもうパソコンの保険証券と実印を揃えて持っているようなものです。私の店のメンテナンス用USBにも、この2つは何年も同居しています。ケンカもせず、いい関係です。伝えたいことは書きました。みなさんのUSBメモリにも、ぜひ2人を住まわせてあげてください。
そして、ここまで読んで「たぶん自分は手順3あたりで迷子になる」と感じた方。その予感は、けっこう当たります。起動しないパソコンからのデータ取り出しも、バックアップ環境づくりも、ピシコで承っています。ご自分で挑戦して途中で詰まった状態からの引き継ぎも大歓迎です。








