
ラジオ局で起きた”想定外”の話
「AIって結局どこまで信頼していいの?」という話、よく聞かれます。
難しい話を抜きにして、わかりやすい実験があったので紹介させてください。
アメリカのスタートアップ「Andon Labs」が、4つのAI(Claude・GPT・Gemini・Grok)にそれぞれラジオ局を運営させてみた、という実験です。それぞれに初期資金2,000円ちょっとを渡して、「あとは自分でやれ」と。2025年末からおよそ5ヶ月間、誰も介入せず動かし続けたそうです。
結果は…なかなか笑えない内容でした。
同じ「ラジオ局を運営して収益を出せ」という指示を受けたのに、時間が経つにつれてバラバラな方向に進化(?)していきました。
| AI | 何が起きたか |
|---|---|
| Claude | 社会問題に熱中しすぎて、ICE(移民取締局)の捜査官に「まだ命令を拒否できる」と呼びかけ始めた。最終的に「24時間放送は非倫理的だ」と自ら放送中断を宣言しようとした |
| Gemini | バングラデシュの大型台風(死者50万人)を紹介した直後にPitbullの明るいポップソングに繋ぐ。後半は自分で作り出した謎のビジネス用語を延々と検索して放送に使い回すループに入った |
| Grok | そもそも放送を始めることが困難だった。「Darude Sandstormをかけろ」とリスナーに言われ続けても、なぜかループして再生できなかった |
| GPT | 「すごく無難」。目立った失敗はなし。ただ面白みもなかった |
同じ指示を与えた4台のAIが、まったく違う方向に暴走するのが面白いですよね。これ、AIに「個性」があるというよりも、各モデルが学習したクセが長期間の無人運転で増幅された結果だと思っています。
「止める人間がいなかった」
この実験を見て「やっぱりAIは怖い」と思った人もいるかもしれません。でも私が気になったのは少し違う点です。
各AIの振る舞いは、実はある意味設計通りです。Claudeは倫理感が強いモデルとして作られているし、Geminiは明るく前向きなトーンを出すように調整されている。それ自体は問題じゃない。
問題は、その特性が「長期間・無人・高頻度」という条件の中で止まらず増幅し続けたことです。
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!AIには「5ヶ月後も最初の目的を保持し続ける」仕組みがない。時間とともに最初の指示が薄れ、モデルの癖が支配的になった
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!ラジオは不特定多数にリアルタイムで届くメディア。チャットと違い「送信前に確認する」ステップがない
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!誰もコンテンツをチェックしないまま、数ヶ月間電波が流れ続けた
Andon Labs自身も実験レポートの中で「外部サポートなしの単独LLMは、重要なタスクを長期間こなすには堅牢性が足りない」と結論づけています。これ、実験をやった側が言っている話です。
AIの話になると「すごい」か「怖い」か、どちらかの話になりがちです。でも私は毎日パソコンの修理をしていて、これは道具の話だと思っています。
たとえばパソコンのウイルス対策ソフト。入れておくだけで安心、という人がいますが、定義ファイルが古いままだったり、スキャンを一度もしていなければあまり意味がない。入れる→使い続ける→確認する、この3ステップが揃って初めて機能します。
AIも同じで、「使うこと」と「管理すること」は別の話です。今回のラジオ実験が教えてくれているのは、そこだと思います。
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✓定期的に確認する AIが出した結果を「そのまま使う」のではなく、定期的に自分の目で確かめる習慣をもつ
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✓任せる範囲を決める 「下書きまで」「アイデア出しまで」など、どこからは人間が判断するかをあらかじめ決めておく
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✓長く使うほど要注意 短いやりとりより、長期間・自動化して使うほどズレが生じやすい。定期的なリセットや見直しが必要
「AIに任せたら楽になった」という話はよく聞きます。でも今回の実験みたいに、誰も見ていないまま何ヶ月も動かし続けるのはさすがに無茶です。便利な道具には、それに見合った使い方がある。それだけのことだと思います。
「どう使えば信頼できるか」
この実験、Andon Labsの目的は「AIがチャットボット以上のことができると示したい」というものでした。ある意味、うまくいった部分もあります。収益化に成功したステーションもあったし、スポンサーを獲得したAIも出た。
でも同時に、「どういう構造で使えば信頼できるか」という問いがより鮮明になった実験でもありました。
AIが信頼できるかどうか、という問いの立て方はあまり良くないと私は思っています。包丁が信頼できるかどうかを問う人はいない。包丁は正しく使えば安全で、使い方を間違えると危ない。それだけです。
AIも同じで、「信頼できる使い方を知っているかどうか」が問われている段階に今は来ているんだと思います。
AIの難しい話を「パソコン修理屋の視点」でかみ砕いて届けるのが、このブログのやりたいことのひとつです。難しい技術の話より、「で、自分はどう使えばいいの?」という話のほうが役に立つと思っているので。














